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1話

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趣味の悪いきらびやかな装飾品が散乱し
乱雑に脱ぎ捨てられた衣服をよけながら部屋の中を進み
薄暗い部屋のカーテンを開けると眩しい陽の光が差し込む

「はぁ………………」

大きなため息と共に頭を抱える
もう何度目となるのかわからない目の前の光景に
すっかり慣れてしまった
苛立ちを抑えながら、目の前で女性と共に寝ている
婚約者の彼に声をかける

「レオナード様、起きてください…お話があります」

目の前で寝ていた男性はアゼラビア王国の第一王子で
私の婚約者
それも今日で終わりの予定だが

「なんだ…シャーロット………朝から」

目を擦りながら起き上がったレオナード様は私の前でもまるで動じる事なく
横に眠る女性と口付けし、胸をもんでいる
吐き気のしそうな光景だが、私は淡々と約束していた事を話す

「約束したはずです、次に女性の方と関係を持てば婚約を取り消しさせて頂きますと」

私の言葉に彼は驚いて目を丸くしていた、信じられないといった表情だ
そして口を開けて大きく笑い出した

「はははは!!面白い冗談だシャーロット!忘れていたぞそんな事!」

「なにが面白いのですか?」

「わかった、こっちにこい、朝だから長くはできないが相手をしてやる…嫉妬する女は好きではないがお前もこれを期待しているのだろう?」

彼は笑顔を見せながら手を伸ばしてきた
寒気が襲う程の嫌悪感に思わず一歩引いてしまう
この男は、私の知らない女性がいるというのに身体の関係を求めてきたのだ
私が引くと、彼は首を傾げて寝台から身体を起こす
衣服を身に着けずに全裸で手を広げて近づく彼から逃げる

「なぜ逃げる?シャーロットこれを求めていたのだろう?お前は俺と婚約しても身体の関係を許さなかったがようやく俺に抱かれにきたのだろ」

何をどう解釈すればこのような思考になるのか
理解できないし、したくもない
彼の立場は王子であり、黒色の綺麗な髪に整えられた顔立ちの見た目は他令嬢達から羨望の眼差しを向けられており
まさに女性の望む眉目秀麗な方だが
それが彼を助長させた

全ての女性が彼を愛して、身体の関係を求めていると勘違いしているのだ
私はもう呆れかえって今すぐ離れたいのに

「レオナード様、お話というのは婚約の破棄についてです」

「破棄?誰と誰がだ?」

あぁ…なぜこれ程のお花畑思考なのか
苛立ちを見せないようにひきつった笑顔で話す

「私と、あなたがです…」

「だから何故だ?俺を愛しているのだろう?お前は見た目がいいから他の令嬢達の誘いを断って婚約を申し込んだのに…俺と一緒になれて嬉しいはずだ」

私が婚約を受け入れたのはお父様から強制されたからだ
そうでなければ女癖の悪い彼との婚約など受けなかった

「…正直に申し上げます、私はあなた愛しておりませんし、愛想をつかしております…婚約してからの数か月で何人の女性と関係を持ちましたか?」

「さぁ?毎日違う者ばかりを抱いていたから覚えていないな」

他の女性はこんな男のなにがいいのか…
ため息を吐き、私は最も言いたかった言葉を告げる

「私はそれに酷く嫌悪感を感じるのです…婚約破棄してください」

「本気か?」

「はい…本気です」

全裸でレオナード様は笑う
衣服の散乱した部屋でその声はよく響いた

「後悔するぞ?俺と別れた先にあるのは崩れ落ちる人生だ」

「覚悟の上です」

すでに崩れ落ちている状態なのだからこれより底はない

「お前の父親…グロウズ伯爵が許してくれるかな?」

「事後報告となってしまいますが、何を言われてもこの気持ちを曲げる気はありません」

「ならここから出ていけ…王宮に荷物一つ残さずにな」

王妃教育のために王宮内に住む私に今すぐ出ていけと言えば困るだろうと
嫌がらせのつもりの言葉だろうが、想定内だ
元から荷物は多く持って来ていない、それに昨日、全ての荷物をまとめた
出ていく準備は済ましている

「では、いままでお世話になりましたレオナード様」

「後悔するんだな」

「……」

誰がするか…
悪態を吐きたい気持ちを抑えながら
彼の部屋から出て、すぐさま私は荷物を持ち王宮から出ていった








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「良かったんですか~?」


寝台に眠っていた名も知らない女に話しかけられ顔を向ける
シャーロットと婚約破棄した今の話を聞いていたのだろう
俺は笑う、良かっただと?
いいに決まっている

「すぐに泣きついてくるさ、俺の魅力を知るいい機会だ」

そう、俺の魅力に再度気付き、また戻ってくるはずだ
泣いて婚約破棄を取り消してもらおうと懇願するシャーロットを想像すると
ムラムラと気持ちが高ぶる

奴は身体を許さなかったが、今回の話の取り消しを条件にようやく解消できる

期待で収まらない笑み
高ぶる気持ちを鎮めるために
俺は寝台で首を傾げていた女を半ば襲うように事をなす




頭の中はあのシャーロットを自由にできる
そんな考えで埋め尽くされていた




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