17 / 23
16
しおりを挟む
「覚えてませんか?小さい頃、カンジョーくんの近所の公園で出会った事」
「近所の、公園?」
「ほら、大きな噴水がある所ですよ。そこで、私達話をしたんです」
俺は記憶を辿る。
小さい頃‥?
「本当にごめん。俺、覚えてなくて」
「‥そうですか」と彼女は今日何度目かの寂しそうな顔をした。
それ、本当に俺なの?という言葉を飲み込む。
彼女がずっと怒っている原因もそこにあるのだろうか。
「小さい時の事ですからね。覚えてなくてもおかしくないです。私はその時、綾姉の家に遊びに来てたんですけど、ちょっと駄々をこねてしまって飛び出したんですよ。当てもなく走っていると、ブランコに乗っているカンジョーくんと会ったんです。何してるの、と私が声をかけると、人生に迷ってるんだ、なんて可笑しな事をあなたは言いました」
あぁ、当時の僕なら言いそうだな。
「私も迷ってる、なんて返すと君は初対面の私に相談に乗るよ、なんて言って‥。私が駄々をこねた理由を言うと、そんな事、些細な事じゃないか、なんて人の気も知らずに言いました」
世の中には、戦争で会いたくても会えない人もいるんだよ、なんて。と続ける日高さん。
「僕は世界平和について頭を悩ませているよ、と私の話を遮り、自分の思い描いている世界平和への道のりを王弁に語りました」
「待って。それ、本当に俺?」
「カンジョーくんですよ。だって、これ、貴方のでしょ?」
彼女はスポーツバッグから何かを取り出した。
それは一本の鉛筆だった。
名前の所に夢野 勘定と書いてある。
母の字だ。
「一方的に話し終えて、君は立ち去ろうとしました。でも、最後に一言添えて。その言葉に当時の私は明るい気持ちになったです」
本当に覚えてない。
「それ、いつ頃?」
「年長の頃ですから、4~5歳ですかね」
あぁ‥それなら納得だ。
「本当にごめん。俺には、丁度その頃の記憶が無いんだよ」
「え、どういうことですか?」
「医師曰く、解離性健忘というらしい」
「解離性‥」
「あぁ、だから、その頃の記憶はまるっきり無い」
「そう、ですか」
日高さんか何か言いたげだったが、すみません、と頭を下げた。
「いや、俺の方こそごめん。あと、この鉛筆も悪いんだけど、持って帰ってもらえるとありがたい」
自分にはその只の鉛筆が重すぎる。
彼女は何も言わずに、その鉛筆をそっとしまった。
気まずい沈黙が流れる。
パスタを運んできた店員も、そそくさと立ち去っていった。
「あのさ、色々と聞いて良いかな」
「どうぞ」
「さっきの話の中では、綾姉はキミの相談内容がよく分かってないようだったけど、伝えてないの?」
「近所の、公園?」
「ほら、大きな噴水がある所ですよ。そこで、私達話をしたんです」
俺は記憶を辿る。
小さい頃‥?
「本当にごめん。俺、覚えてなくて」
「‥そうですか」と彼女は今日何度目かの寂しそうな顔をした。
それ、本当に俺なの?という言葉を飲み込む。
彼女がずっと怒っている原因もそこにあるのだろうか。
「小さい時の事ですからね。覚えてなくてもおかしくないです。私はその時、綾姉の家に遊びに来てたんですけど、ちょっと駄々をこねてしまって飛び出したんですよ。当てもなく走っていると、ブランコに乗っているカンジョーくんと会ったんです。何してるの、と私が声をかけると、人生に迷ってるんだ、なんて可笑しな事をあなたは言いました」
あぁ、当時の僕なら言いそうだな。
「私も迷ってる、なんて返すと君は初対面の私に相談に乗るよ、なんて言って‥。私が駄々をこねた理由を言うと、そんな事、些細な事じゃないか、なんて人の気も知らずに言いました」
世の中には、戦争で会いたくても会えない人もいるんだよ、なんて。と続ける日高さん。
「僕は世界平和について頭を悩ませているよ、と私の話を遮り、自分の思い描いている世界平和への道のりを王弁に語りました」
「待って。それ、本当に俺?」
「カンジョーくんですよ。だって、これ、貴方のでしょ?」
彼女はスポーツバッグから何かを取り出した。
それは一本の鉛筆だった。
名前の所に夢野 勘定と書いてある。
母の字だ。
「一方的に話し終えて、君は立ち去ろうとしました。でも、最後に一言添えて。その言葉に当時の私は明るい気持ちになったです」
本当に覚えてない。
「それ、いつ頃?」
「年長の頃ですから、4~5歳ですかね」
あぁ‥それなら納得だ。
「本当にごめん。俺には、丁度その頃の記憶が無いんだよ」
「え、どういうことですか?」
「医師曰く、解離性健忘というらしい」
「解離性‥」
「あぁ、だから、その頃の記憶はまるっきり無い」
「そう、ですか」
日高さんか何か言いたげだったが、すみません、と頭を下げた。
「いや、俺の方こそごめん。あと、この鉛筆も悪いんだけど、持って帰ってもらえるとありがたい」
自分にはその只の鉛筆が重すぎる。
彼女は何も言わずに、その鉛筆をそっとしまった。
気まずい沈黙が流れる。
パスタを運んできた店員も、そそくさと立ち去っていった。
「あのさ、色々と聞いて良いかな」
「どうぞ」
「さっきの話の中では、綾姉はキミの相談内容がよく分かってないようだったけど、伝えてないの?」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる