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何て返せばいいのか迷った私でしたが、「おじいちゃん」と声を掛けると、祖父は驚いた顔もせずにこちらを振り返り、そして数秒、目を見て来ました。

主観にはなりますが、私にはそれが懇願しているように見えました。
数秒後、祖父は天井を見上げる形で寝息を立てました。

私は、先ほどの祖父の言葉は聞き間違えだったのではないかと一瞬思いましたが、耳に残る言葉はそれを聞き間違いではないと言っています。

しかし、あの祖父が墓場まで持って行きたい秘密なんてあるのか。もしあるなら、それは何なのか。そこが、どうしても胸のわだかまりとしてずっと残っているんです。

次に目を覚ましたら祖父が私の目を見て言った一言は「ああ密花。よく来たね」でした。

いつもの優しい祖父の顔でした。

—————————

そう言葉を区切ると、日高さんはカプチーノを飲みゆっくりと息を吐いた。

そして俺の目を覗き込み、何かを期待している。

「どうでしょう?」

「どうでしょう、とは?」

「祖父の墓場まで持って行きたい秘密は何だと思いますか?」

おいおい。
急に謎解きみたいになってきた。
ふざけているのか、と思ったが日高さんの顔は至極真剣だった。

真剣な問いかけには、出来るだけ真剣に返したい。
俺もコーヒーを飲み干し、息を吐いて率直に言った。

「わからん」

「わからん?」

分かるはずもない。俺は彼女の祖父と面識があるわけでもないのだ。それは思った事を無責任に口にしたらいい、ということかもしれないが、何やらそういう雰囲気でもない。
日高さんが何を求めえているのかが全く分からなかった。
心で思っていた筈が、どうやら顔と実際声にも出ていたようで、日高さんは目を瞑り何やら考え込んだ。

俺は「すみません」とマスターを呼び、同じコーヒーを頼んだ。私も、と日高さんはメロンクリームソーダを頼んだ。
マスターが「そうだよねぇ」と嬉しそうに笑う。

「メロンクリームソーダを馬鹿にしますか」と少し顔を赤らめた日高さんが言った。

「えーっと。しないけど?」

即答するとホッとした顔になる。最初はAIのような奴だと思っていたが、こう表情がコロコロ変わる姿を見て人間なのだなと思う。
何だか小動物みたいだ。

「また失礼な事を思われた気がします」

そしてとても勘が鋭い。

「カンジョーくんは思ったことが顔に出ますね。気をつけた方がいいです」

それは自覚がなかった。興味本位で「どんな顔だよ」と聞くと「それをやると罰ゲームになってしまいます」と失礼な事を言ってくる。


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