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「ないよ。だからさ、初対面なのにいきなりお願いをされても困るというか」

「あ、なるほどです。でも、実は初対面だけど私はカンジョー君の事、よく知ってます」

少なくても俺が下の名前を嫌っていることは知らないようだ。

「俺は君の名前すら知らないんだけどね」

「日高です。日高密花ヒダカミツハ

「あ、そう」

では今後ともよろしく、とはならないだろ。
矢島ならなるかもしれないが。

俺の反応を見て不思議そうに首を傾げた日高さんは、おかしいな、と呟いた。

「私のこと、聞いてません?」

「誰から?」

「綾姉から」

「は?」

綾姉?

名前を聞いた瞬間、綾姉の整った顔が脳裏に浮かぶ。
今、綾姉って言った?

「綾姉って、相浦綾瀬さんの事?」

「そうです。嘘、綾姉伝えるって言ってたのに。‥ちょっと待って?私、もしかして今凄く恥ずかしい事してます?」

顔を赤くし、頬を両手で押さえる。
そんな事は問題じゃない。

「日高さんは綾姉のなんなの?」

「従姉妹です。私の母の姉が、綾姉のお母さん」

顔を覆いながら彼女はそう答えた。

「従姉妹?キミが?」

全く似ていない。眼鏡を外すと変わったりするのだろうか。

「今すごく失礼なことを思われた気がします」

「気のせいだよ。それで、綾姉はいつ戻ってくるの?」

「心なしか、顔ニヤついてません?」

「そんな事ないよ」

「いいえ、さっきと明らかに違います。私の目からは体温も2度程上昇してると見ました」

「キミの目は体温測定器の役割も担ってるの?」

「どういうことです?」

「いや流してくれていい。恥ずかしいから。で、いつ帰ってくるの」

しつこく聞くと、日高さんは目を細めて「明日」と答えた。

「へぇ、そうなんだ」

日高さんに図星を突かれたのが癪だったが、俺は内心込み上げる喜びを感じていた。

「じゃあまた会うかもしれないね。それじゃ」

俺が背を向けると、「まって!」と腕を掴まれた。

「まだ話は終わってませんよ」

話って一体なんの?

「私のお願いを聞いてくれるって」

「そんなことは一言も言っていない」

「でも、綾姉が、カンジョー君なら相談に乗ってくれるって」

目を潤ませ訴えてくる。
周りにいた生徒達はヒソヒソと耳打ちをしていた。

ま、まずい。
このままじゃあ、変な噂を流されてしまう。

「分かった、分かったからちょっと場所を変えよう」

「それもそうですね」

パッと顔を元へと戻す。
コイツ、演技か。

「あ、そしたら明日の昼、『喫茶夢心地』に集合はどうです?」

「明日?今ここじゃあダメなの?」

「はい、考え直しました。誰が聞いているかも分からないですし」

声を潜めて言う。そんなに聞かれたらまずい話なのだろうか。

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