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昔話

⑦昔話、くろ

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 雨が降りだした。

 雨が降ってもする事はあるし、大変だとは思わない。
 いままでと同じで変わらない。

 だけど、少しづつ困ることがふえたみたい。食べ物がなくなったような気がする。
 里山に入って、食べ物を探してみたけど、いいものは特になかった。
 沢に行っても、いつもなら渡れるぐらいの沢なのに、水が増えて茶色くなって流れてて、魚が取れるとは思えなかった。

「帰ろうか?」
 力なくそう言って、いっしよにとぼとぼと帰る。

 次の日、戸を少し開けて空を見ていた。
「雨、止まないね…」
 僕も足元から外を覗きこんだ。
 しとしと降る雨は、朝になったというのに、どんより暗い空と相まって、いっそう暗く重い気配がしていた。

 僕のできることをしようと思って、戸のあいだから外に出た。

「どうしたの?、戻っておいで」
 そう言われたけど僕は一回吠えて、いってきますのかわりにした。
 何か狩ることができればいいのに。

 外に出て、ついでに畑のことも見ていた。
 畑の様子は悪かった。作っていた作物は、雨のせいで腐り始めていたし、他の畑も同じようなものだった。
 なんとなく、畑の回りを歩いて見ていた。


 その時、村の人達が話しているのが聞こえてきた。

「こうなっては……」
「どうしようもない…」
「神様に、い…… えを」
「どうせ、ひ…ば…  ら、のようなもの」
「だれに?」
「あの村はずれの子に…」
「それならば、誰も反対しない…」

「み… 、だと言えば、わかるまい」
「そうだな…」
「……こ、として神様に…」
「それならば雨も…」
「明日にでも…」


 いろんな話しが聞こえてきた。
 神様に何かお願いをするらしい。
 何をどうするのかわからないけど、いやな予感がした。

 なにも取れなかったけど、もう帰ろう。
 なんだか心配になってきた。
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