日本向け半導体を生産しない?TSMCとラピダス工場に国が巨額補助金の愚策

TSMC熊本工場の経済波及効果

 九州FGは8月30日、TSMCの進出による熊本県への経済波及効果が2022~31年の10年間で6兆8518億円に上るとの推計を発表した。その内訳は以下の通りである。

・TSMC熊本工場の半導体生産による波及効果:4兆1406億円
・設備投資などによる波及効果:2兆4054億円
・工業団地造成:1007億円
・住宅関連:2052億円

 上記試算に当たっては、TSMC熊本工場に関連して進出する企業が約90社、新規雇用1万700人と想定している。そして、九州FGの笠原慶久社長は記者会見で、「100年に1度の規模で、大きなチャンスだ。効果を最大化するには、TSMCの地元調達率を高める必要がある。地場企業がリスクを取って投資できるよう、積極的に融資していく」と述べたという(2023年8月31日付読売新聞オンライン)。なお上記の試算には、TSMC熊本の第2工場は含まれていない。もし、第1工場と第2工場の合計の経済波及効果を試算したら、6兆8518億円の2倍になるのだろうか。

ラピダス北海道工場の経済波及効果

 一方、1000年に1度のビッグチャンス到来とされるラピダス北海道工場の経済波及効果はどうなっているか。北海道新産業創造機構は、工場が1棟の場合のシナリオ1と2棟の場合のシナリオ2を発表している(2023年11月21日付日経新聞)。最近、ラピダスは半導体工場を2棟建設することを公表しているので、以下ではシナリオ2について紹介する。

・工場の数:第1工場+第2工場
・シリコンウエハの生産規模:工場1棟当たり月産2万枚
・量産開始時期:第1棟が2027年度、第2棟が2030年度
・関連事業所の新規立地数:70カ所
・関連産業を含む従業員数:3600人

 このシナリオ2による2036年までの経済波及効果は合計18.8兆円と試算されている。その内訳は以下の通りである。

・最先端半導体生産による波及効果:10兆円
・ラピダスの工場などへの設備投資の投資効果:8.5兆円
・関連産業における工場・設備の投資効果:約3000億円

 そして、北海道新産業創造機構の藤井裕理事長(道経連会長)は記者会見で「北海道でこれほどの投資規模は例がない。新たな基幹産業ができる千載一遇のチャンスだ」と語ったという(前掲の日経新聞)。

「100年に1度」のTSMC熊本工場にしても、「1000年に1度」のラピダス北海道工場にしても、まだ半導体を生産しておらず、量産できるかどうかも分からないのに、取らぬ狸の皮算用的な巨額な数字をでっちあげたものだと呆気にとられる思いである。そして冒頭でも述べたように、この巨額な補助金と巨額な経済波及効果は、過疎地への原発の誘致を髣髴(ほうふつ)とさせる。以下では、東京電力の柏崎刈羽原子力発電所を例に、その経済波及効果を見てみよう。

東京電力柏崎刈羽原子力発電所の経済波及効果

 2000年4月1日付柏崎日報は、東京電力が建設した柏崎刈羽原子力発電所(以下、柏崎原発)の経済波及効果を報じている。この調査を行ったのはホクギン経済研究所で、調査期間は、柏崎原発1号機建設着工の3年前の昭和50年度(1975年)から全号機(7号機)完成前年の平成8年度(1996年)までの22年間としている。

・原発建設投資額:約2.5兆円
・新潟県全体の人口増:20,943人
・従業者数:17,436人
・新潟県の総生産:4367億円
・県民所得:2537億円

 以上から、柏崎原発の新潟県への経済波及効果は約3兆円と結論している。

半導体工場と原発の比較

 TSMC熊本の第1工場の経済波及効果は、2022~31年の10年間で6兆8518億円と推定された。また、ラピダス北海道の2つの工場による経済波及効果は、2036年までの14年間で18.8兆円と試算された。一方、柏崎原発の経済波及効果は、1975年から1996年までの22年間で約3兆円だった。