伊藤忠、買収検討中のビッグモーター全社員5千人の雇用を維持する方針が判明

社風の親和性は高い伊藤忠とビッグモーター

 このようにビッグモーターの社員による悪事については枚挙に暇がないこともあり、買収にあたり伊藤忠は人員整理に手を付けるとの見方もあった。

「あらゆる業界で人手不足が深刻化するなか、5000人もの人材を一挙に手に入れられるというのは大きなメリットだ。ビッグモーターは社員への厳しいノルマが有名で離職率も高いが、裏を返せば残っている社員は『図太くて優秀』ともいえる。伊藤忠も総合商社のなかでは非財閥系ということもありどんどん新規事業を開拓していく『野武士集団』。意外にも両社の社風の親和性は高く、自身がゴリゴリの営業マンだった岡藤会長もビッグモーターの社員には悪い印象は抱いていないだろう」(伊藤忠グループ会社社員)

 ビッグモーターはすでに国土交通省から34の工場について自動車整備の事業を停止する行政処分を出されており、顧客などとの間で複数の訴訟を抱え、今後増えるとみられているほか、損害保険会社へ支払う損害賠償も数十億円に上ると予想されており、不確定のリスクも多い。そのため伊藤忠は、中古車事業など収益性の見込める事業のみを引き継ぐ新会社を設立してこの会社を買収し、損害賠償の支払いなどの簿外債務の整理は既存のビッグモーターに残したままにする方式を検討している。
 
「ビッグモーターは買収の判断が出る前に破綻することもあり得るほど資金繰りに窮している。したたかな伊藤忠だけに、ギリギリまで判断を伸ばして、できるだけビッグモーターから有利な条件を引き出してくるだろう。他の総合商社が対抗馬として買収に名乗りを上げる可能性はなく、伊藤忠としては買収できなくても痛手を被るわけではない。その意味では、完全に伊藤忠側の主導で買収交渉は進むだろう」(同)

 当サイトは11月20日付記事『伊藤忠商事、絶大なビジネス価値を持つビッグモーター買収は強力な武器になる』で本買収の行方を追っていたが、以下に改めて再掲載(一部抜粋)する。

――以下、再掲載――

 ビッグモーターの経営は厳しい。「NHK NEWS WEB」の報道によれば、8月の中古車の販売台数は例年と比べて7割以上の減少、車の買い取り台数は5割以上の減少となっている。8月には銀行団から借入金90億円の借り換えに応じない旨も伝えられている。

 伊藤忠がそんなビッグモーターの買収を狙う理由とは何か。また、もし仮に買収したとして、再建を成功させることができるのか。百年コンサルティング代表取締役の鈴木貴博氏はいう。

「ビッグモーターは顧客や取引先からのビジネス上の信用を大きく棄損したうえに、保険代理店の登録取り消しや整備工場の行政処分など、本来の事業遂行もままならない状況に陥っています。このまま創業家が資本を持ち、現経営陣が経営を続けていては事業が早晩立ち行かなくなる可能性が高くなっています。

 そのような状況の企業に対して伊藤忠商事が出資をするメリットがあるのか? と一般的には疑問に思う方も多いと思います。デューデリジェンスとは、何らかの買収なり救済を前提にまずはビッグモーターに情報を開示してもらい、現在の経営状況を伊藤忠商事が吟味をする段階です。この段階では、まだ伊藤忠商事にはリスクはありません。

 問題は、事業の中身を吟味した次に、どのような形で事業を引き継ぐかです。ここは、さまざまなスキームがあり、同時に伊藤忠商事陣営と創業家の兼重親子の間で駆け引きが行われる部分です。ここまで信用が低下した企業体とはいえ、仮に創業家の影響力がなくなり、経営陣が総入れ替えになるような状況が成立すれば、信用が回復でき黒字体質に戻る可能性は高いでしょう。たとえば伊藤忠ブランドで伊藤忠傘下の別会社が、ビッグモーターの営業権だけを譲渡させて全国250の店舗網、130の工場網、業界随一の中古車在庫などの資産を引き継げば、かつて『売上高7000億円』を誇った頃のような莫大なビジネス価値が手に入ります。