金融庁、行政処分で「ビッグモーターは会社じゃない」断罪…取締役会も行わず

「これだけ酷いビッグモーター社内の実態を、損保各社から出向していた社員たちはどのように認識し、自社に報告していたのか。著しいコンプラ違反の蔓延を認識しながらも取引を継続していたとすれば金融機関として問題が生じる。特に損保ジャパンは昨年、金融庁に対して虚偽の報告をしていた疑いもあり、一定期間の一部事業停止など厳しい処分が出される可能性もあるとみられている」(損保業界関係者)

 気になるのは今回の行政処分がビッグモーターの今後におよぼす影響だ。大手総合商社の伊藤忠商事は17日、子会社の燃料商社・伊藤忠エネクス、企業再生ファンド・ジェイ・ウィル・パートナーズと組み、ビッグモーターとデューデリジェンス(資産査定)を独占的に実施する基本合意書を締結したと発表し、買収を検討していることが明らかになっているが、前出・鈴木氏はいう。

「影響は2つあります。ひとつはこれまで形式的に済ませてきたガバナンスを、買収側は実体を伴ったものに変えて再構築する必要があります。これだけの問題を起こした企業なので実際にガバナンス体制が新しく構築されていることが確認できなければ、保険の代理店業務や車検などの工場業務を再び認可されることはありません。

 もうひとつは、当然ながらそれら当たり前にやるべきことをすべてやることに変更すれば、事業にかかるコストは大幅に上昇します。それまでかけずに済ませてきたコストが上昇するということは、当然、これまでのような大きな利益は望めないことになり、これは買収価格が大幅に下がるであろうということにつながります。とはいえ過去のビッグモーターはきちんとやるべきことをやらないことで利益を上げるとともに、そのつけを利用者や取引先に回してきたことで成長できたということですから、今回の問題指摘とそれに伴う諸制度の再構築は当然行わなければならないものだと考えるべきでしょう」

 金融業界関係者はいう。

「保険代理店登録の取り消しは既定路線であり、ビッグモーターのガバナンス欠如もわかりきったこと。伊藤忠が手に入れたいのは全国の店舗網と中古車在庫、整備工場、そして営業部門や整備工などの人材。それらリソースを使った経営は伊藤忠がやるので、伊藤忠としては今回の行政処分の内容を受けて今さらどうのこうのということはないだろう」

顧客の被害状況

 ビッグモーターによる不正行為は顧客にもおよんでいた。消費者庁は10月、2022年度に同社に関する相談が約1500件も寄せられていたと発表したが、同社が提供する撥水加工「ダイヤモンドコーティング」をめぐり、営業担当者がコーティングを望んでいない顧客に対し車の販売は困難だと伝え、顧客から約7万円のコーティング料金を取って販売したものの、コーティングを施さないまま納車した事例もあったという(10月1日付「FNNプライムオンライン」記事より)。また、トヨタ「クラウン」の最上級クラス「RS Advance」の購入を希望し購入契約の締結と頭金の支払いも済んだ顧客に対し、営業担当者が5段階下のクラスの車を納車しようとしていたこともあったという(10月5日付「FNNプライムオンライン」記事より)。

 同社社員のよる悪質な行為は枚挙に暇がない。車の購入者が代金の約100万円を現金で支払おうとしたところ、店舗の営業担当者から総支払額は変わらないので1年だけローンを組むよう説得され、結果的に120万円を支払う羽目になったり、新品タイヤなど30万円相当のオプションを無償で付けるのでローンを組むよう言われた客が、約束を反故にされオプション分を有償で契約させられたケースも(8月11日付「AUTOCAR JAPAN」記事より)。ビッグモーターに売却した車について冠水した過去はないにもかかわらず、冠水した跡があるとして突然700万円の賠償請求訴訟を起こされたり、店舗で売却のキャンセルを告げると店長から罵声を浴びせられるようなケースもあったという(8月11日付「弁護士ドットコムニュース」記事より)。このほかにも、中古車の一括査定サイトでは、登録した顧客のメールアドレスや電話番号などを入手し、その顧客になりすまして勝手に登録を解除する一方で顧客に接触し、他の中古車買取業者との価格競争を回避する「他社切り」という行為まで横行していたという(8月9日付「FNN」記事より)。