谷:優勝やいいところにいったコンビはそのまま売れて、仕事はできていますね。ただ、仕事が忙しくて、漫才は年に何回しかやらない。それでいい漫才ができるはずはなくて。決勝には残ったけども、優勝できなかったコンビは欲求不満が残っているみたいです。
楠木:それだけ最初にお考えになったコンセプトが今でも機能していることと思います。
谷:たまたまですけどね。
楠木:僕は落語以外の大衆お笑い芸能では、漫才が一番おもしろいと思っています。そのときのおもしろさだけでなく、何回見てもおもしろい。それだけ芸としての完成度が高いジャンルです。しかし、そもそもM-1がなかったら、漫才の第二黄金期も長く続いてはいなかったわけですね。
最後に、これからの漫才についてですが、やはりYouTubeの影響がすごく大きいと思っています。「ざっくりYouTube 」ってご存じですか。千原ジュニアさん、小籔千豊さん、フットボールアワーさんが本当に雑談するだけですが、長い時間をかけて練り上げられた話芸の達人が自然と話し合うのを、傍から聞いているだけでもおもしろい。それで初めてYouTube番組を習慣的に見るようになりました。
劇場などでの経験がなく、純粋にYouTubeで知名度を得て、映画やコマーシャルに出るようになったユーチューバーもいます。たとえば、岡田康太さんは「岡田を追え! !」というYouTubeチャンネルで知られるようになりました。なぜ僕が見ているかというと、その方が僕の本をしょっちゅうネタに使ってくれていると聞いたからです(笑)。これは100% YouTubeのコンテンツですが、僕の世代でも見ていておもしろい。
ということは、プロの話術ではなくても、見ている人がおもしろければいいし、YouTubeでしか成立しないものも出てくるとなると、最も高度な技術が要求される漫才のようなジャンルはどうなるのか。
今は好調でも、10年後にM-1の神通力がなくなって、谷さんみたいな方がもう1度プロジェクト立ち上げなくてはならないときが来るのではないかと思うのです。そのときには、M-1のようなコンテスト形式のカードはもう切れない。その頃、我々は生きていないのかもしれないですけどね。
谷:わからないですが、そのときは漫才というジャンルではない、まったく違うものになっているかもしれません。能や歌舞伎になると伝統芸能ですが、漫才も生で見る芸能として、その時々、時代を切り取ってしゃべるライブとして、生き残るのかな。
楠木:僕が最近知った好きな言葉が、「人間は死んでからが勝負だ」というものです。その人が死んでから、みんなが何を言うかでその人の真価がわかる。こんなことを言うと、縁起が悪いですが、M-1を誕生させた谷さんと、この本は、きっと死後も語り継がれますね(笑)。
今回、谷さんの本を読んで、漫才というジャンルの価値が本当によくわかりました。
(構成:渡部典子)