「自由にやってきた40~50代」に何も残らない理由

私の知り合いで、広告デザイナーとして転職を繰り返し、キャリアを積んできた女性がいます。最初は広告制作会社でデザインの基礎を学んでいましたが、10年ほどして、全体の中の広告の位置づけを知りたいとメーカーの広告制作部署に転職しました。さらに最先端のアドテックを学びたいとテック系の広告会社に行き、今ではデジタルメディアについて勉強を続けています。

彼女は、管理職の仕事が来ると断ります。でも、時代の変化をつねにキャッチアップしているから40代になっても転職できるし、若手が出てきても恐るるに足らず。余人をもって代えがたい知識とキャリアを身につけているのです。

最近では、管理職の専門家を外から招くスタートアップの話もよく聞きます。事業が軌道に乗り従業員が増えると、それをマネジメントする人が必要になり、その道の専門家に来てもらうというわけです。Googleはその典型でしょう。創業者はラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンの2人ですが、のちにエリック・シュミットという著名な経営者にCEOとして入ってもらいました。

管理職=偉い、という時代でもなくなりました。昭和の時代の管理職といえば、年功序列で偉くなり、ひたすら書類にハンコを押すというイメージでした。平成の時代は、部下に厳しいノルマを課して叱咤激励。

令和の時代はそのどちらでもなく、チームの力をより引き出し、人間関係の調和を図ることが求められています。これも一つの専門職です。広い意味でのコミュニティマネジメントと言ってもいいでしょう。AI時代に生き残る可能性の高い仕事でもあると思います。

自分の中に「軸」を持とう

コミュニティマネジメントは、人生100年時代に必要な能力の一つです。ライフ・シフトといっても、いきなりステージを変えるのはそう簡単ではありません。昭和の営業マンがある日突然、DXができるようにはなりません。ただ、自分の中で軸を持って対人関係を築いていくことは、スムーズな移行を助けます。

「軸を持つ」とは、たとえば私の場合なら「ものを書くこと」でしょうか。テーマは時代によってどんどん変わります。当初はITが大きなテーマでしたが、テクノロジーがカバーする領域はここ20年、SNSやAIの登場で格段に広がりました。その広がりに自分も合わせていっているという感じです。

もちろん中学生や高校生の段階で、何か明確にやりたいことが見つかっている子は少数でしょう。「ずっとクリエイティブな仕事がしたい」「ものづくりがしたい」といった漠然としたものでいいと思います。いずれにしても自分の中に何かしら軸がないと、何をやっていいかわからない。社会に出ても、結局はリスキリングなどという世の中の流れに振り回されるだけになってしまいます。

本書の中で特に大事だと私が感じたのは、「無形資産」の話です。無形資産には、スキルなど所得を得るための生産性資産、心身の健康などの活力資産、変化に柔軟に対応する変身資産などがありますよね。このうちの生産性資産においては、スキルを身につけるためにハードワークもいとわない、という時期があってもいいのではないでしょうか。

私にとってそれは、12年間の新聞記者時代です。めちゃくちゃつらい労働でしたが、その間に体に染みついたインタビュー能力や原稿を早く書く能力は、いまだに大いに役立っています。死ぬほどつらい労働をさせられたからこそ、体が覚えているのです。

もちろんブラック企業を推奨しているわけではありません。しかし一方で、多くの企業がホワイト化しすぎて、若手にとっては物足りなくなっているという現実もあります。

俯瞰して自分を見ることの重要性