社員成長の決め手は、人事が9割

「地味」「つらい」と思われがちだが実は面白い「人事」という仕事

2024.06.26 公式 社員成長の決め手は、人事が9割 第27回

地味だと言われがちだが、やってみるとこんな面白さがある

若い人事担当者の皆さんに「人事好きですか?」と尋ねると、多くの人が「好きです」と答えます。とてもよいことだと思います。思いますが、実は私自身は「好き」とは少し違う気がしています(つらいこともいっぱいありますから…)。とはいえ、奥深く、意義のある仕事だと思っています。今回は、そんな「人事」という仕事の醍醐味についてお伝えしてみたいと思います。

Getty Images

人事は地味と言われがちですが、やってみるといろいろな面白さがあります。たとえば、給与計算や福利厚生の業務は、地味に見えるかもしれません。けれども深堀していくと「なんでこんなに残業してるんだっけ?」「なんでこんな手当が付いてるんだっけ?」と気になるポイントが出てきます。

さらに一歩踏み込んでいくと「ずっと残業が多かったのに最近は定時で帰ってるけど大丈夫かな」と何らかの異常値が見えたりします。異常があるところにアンテナを立て「それってなぜなんだろう?」と踏み込んでいくと、今まで顕在化していなかった課題が見えてきます。それを人事部内で共有し、解決に結び付けていくのです。

火のないところに煙を見つける。これは人事の重要な仕事の1つです。人事の世界では「煙情報こそ大事」と言われています。火のないところに煙は立たぬという言葉がありますが、火が燃えている、たとえば「退職願い」を出されてしまったら、まず止められません。大切な人材が退職願いを出す前に、手を打たなければなりません。

社員の過労死ラインを超える過重労働といったコンプライス違反も同様です。火のないところに煙を見つけたら、その情報収集をして、「何が起こっているんだろう」と事実確認をし、対策を考え、実行していく。

人事が扱うのは「人」のことなので、なかなか答えが見えないことも多いです。それでもあきらめず、良い解決方法はないかと探していく。その結果、うまく解決できたら「意義深い仕事だなぁ」と実感することができます。これが人事の仕事の醍醐味の1つです。

人事は社員の一生を左右する仕事。「今から死にます」と告げられることも

一例を挙げると、ある部署に優秀な女性社員がいて、シングルマザーでした。ところが勤怠データを見ると、毎日かなりの残業をしています。「小さいお子さんがいるのに大丈夫かな」と心配になり上司に確認すると「彼女にしかできない仕事がある」といいます。

本人も「自分がこれをやらないと…」と言っていますが、育児をしながら毎日20時21時まで働いていたら、体調を崩して潰れてしまうかもしれません。近くに実家があり、お子さんの面倒を見てくれていたそうですが、それは親への負担にもなります。

人事から上司や役員に「それは周りが甘えすぎ」と進言し、適切な時間に帰れるようにして、彼女が潰れる前に止めることができました。

自ら異動希望を申し出ることができる自己申告制度を導入しても、イケてない上司ほど「〇〇がいないとダメなんだ」と言って絶対に手放そうとしないものです。結果、社員が潰れてしまったり、自分のやりたいことがある優秀な社員は他社に移ってしまいます。できる人を失ってしまったら元も子もありません。

異動希望があったら実現できるよう努力する。社内の噂などもキャッチし、火のないところに煙を見つけ、迅速に対応する。これが会社を守ることにもつながります。

ただ、煙を見つけられず燃えそうになってしまったこともあります。私は当時、恵比寿で働いていたのですが、関西にいる社員から「今から死にます」と電話がかかってきたのです。もともとナイーブな子でしたが、激しい人間不信に陥ってしまったようでした。

すぐに関西にいる親に連絡しましたが「西尾さんお願いします」と言われてしまい、新幹線に飛び乗りました。結果、最悪の事態は食い止めることができましたが、心身を病んでメンタル不調になってしまう社員は少なくありません。その対応もまた人事の大事な仕事の1つです。だからこそ、ちゃんと真剣にやらなくてはいけない仕事でもあります。

ご感想はこちら

プロフィール

西尾 太
西尾 太

人事コンサルタント。フォー・ノーツ株式会社代表取締役社長。「人事の学校」主宰。
1965年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。いすゞ自動車労務部門、リクルート人材総合サービス部門を経て、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)にて人事部長、クリーク・アンド・リバー社にて人事・総務部長を歴任。
これまで1万人超の採用面接、昇降格面接、管理職研修、階層別研修、また多数の企業の評価会議、目標設定会議に同席しアドバイスを行う。
汎用的でかつ普遍的な成果を生み出す欠かせない行動としてのコンピテンシーモデル「B-CAV45」と、パーソナリティからコンピテンシーの発揮を予見する「B-CAV test」を開発し、人事制度に活用されるキャリアステップに必要な要素を体系的に展開できる体制を確立。これまで多くの企業で展開されている。また2009年から続く「人事の学校」では、のべ5000人以上の人事担当者育成を行っている。
著書に『人事担当者が知っておきたい、10の基礎的知識。8つの心構え』(労務行政)、『人事の超プロが明かす評価基準』(三笠書房)、『プロの人事力』(労務行政)、『人事の超プロが本音で明かすアフターコロナの年収基準』(アルファポリス)、『超ジョブ型人事革命 自分のジョブディスクリプションを自分で書けない社員はいらない』(日経BP)などがある。

著書

人事はあなたのココを見ている!

人事はあなたのココを見ている!

西尾 太 /
空前のリストラ時代、ビジネスマン人生の明暗を分けるのは、人事の評価である。...
人事の超プロが本音で明かすアフターコロナの年収基準

人事の超プロが本音で明かすアフターコロナの年収基準

西尾 太 /
「頑張っている」はもはや無意味。「成果」こそが揺るぎない価値になるこの時代...
出版をご希望の方へ

公式連載