若い人事担当者の皆さんに「人事好きですか?」と尋ねると、多くの人が「好きです」と答えます。とてもよいことだと思います。思いますが、実は私自身は「好き」とは少し違う気がしています(つらいこともいっぱいありますから…)。とはいえ、奥深く、意義のある仕事だと思っています。今回は、そんな「人事」という仕事の醍醐味についてお伝えしてみたいと思います。
人事は地味と言われがちですが、やってみるといろいろな面白さがあります。たとえば、給与計算や福利厚生の業務は、地味に見えるかもしれません。けれども深堀していくと「なんでこんなに残業してるんだっけ?」「なんでこんな手当が付いてるんだっけ?」と気になるポイントが出てきます。
さらに一歩踏み込んでいくと「ずっと残業が多かったのに最近は定時で帰ってるけど大丈夫かな」と何らかの異常値が見えたりします。異常があるところにアンテナを立て「それってなぜなんだろう?」と踏み込んでいくと、今まで顕在化していなかった課題が見えてきます。それを人事部内で共有し、解決に結び付けていくのです。
火のないところに煙を見つける。これは人事の重要な仕事の1つです。人事の世界では「煙情報こそ大事」と言われています。火のないところに煙は立たぬという言葉がありますが、火が燃えている、たとえば「退職願い」を出されてしまったら、まず止められません。大切な人材が退職願いを出す前に、手を打たなければなりません。
社員の過労死ラインを超える過重労働といったコンプライス違反も同様です。火のないところに煙を見つけたら、その情報収集をして、「何が起こっているんだろう」と事実確認をし、対策を考え、実行していく。
人事が扱うのは「人」のことなので、なかなか答えが見えないことも多いです。それでもあきらめず、良い解決方法はないかと探していく。その結果、うまく解決できたら「意義深い仕事だなぁ」と実感することができます。これが人事の仕事の醍醐味の1つです。
一例を挙げると、ある部署に優秀な女性社員がいて、シングルマザーでした。ところが勤怠データを見ると、毎日かなりの残業をしています。「小さいお子さんがいるのに大丈夫かな」と心配になり上司に確認すると「彼女にしかできない仕事がある」といいます。
本人も「自分がこれをやらないと…」と言っていますが、育児をしながら毎日20時21時まで働いていたら、体調を崩して潰れてしまうかもしれません。近くに実家があり、お子さんの面倒を見てくれていたそうですが、それは親への負担にもなります。
人事から上司や役員に「それは周りが甘えすぎ」と進言し、適切な時間に帰れるようにして、彼女が潰れる前に止めることができました。
自ら異動希望を申し出ることができる自己申告制度を導入しても、イケてない上司ほど「〇〇がいないとダメなんだ」と言って絶対に手放そうとしないものです。結果、社員が潰れてしまったり、自分のやりたいことがある優秀な社員は他社に移ってしまいます。できる人を失ってしまったら元も子もありません。
異動希望があったら実現できるよう努力する。社内の噂などもキャッチし、火のないところに煙を見つけ、迅速に対応する。これが会社を守ることにもつながります。
ただ、煙を見つけられず燃えそうになってしまったこともあります。私は当時、恵比寿で働いていたのですが、関西にいる社員から「今から死にます」と電話がかかってきたのです。もともとナイーブな子でしたが、激しい人間不信に陥ってしまったようでした。
すぐに関西にいる親に連絡しましたが「西尾さんお願いします」と言われてしまい、新幹線に飛び乗りました。結果、最悪の事態は食い止めることができましたが、心身を病んでメンタル不調になってしまう社員は少なくありません。その対応もまた人事の大事な仕事の1つです。だからこそ、ちゃんと真剣にやらなくてはいけない仕事でもあります。