中小企業の経営者からよくこんなご相談を受けます。「うちの人事はオペレーションしかやっていない。それだけで人事をやっている気になっていて、戦略や企画を考えてくれない。どうしたらいいかな」。
人事の機能と業務というのは、上記のようになっています。大きく分けると「人事・採用」「給与・厚生」「育成・評価」という3つの分野があり、それぞれに戦略、企画、運用・管理・オペレーションという職務があります。
人事の職務は、実のところとても広くて多いため、特に労務管理のオペレーションだけで手一杯になってしまっている人事担当者が多いようです。労務管理とは、給与計算や労働時間の管理、労働法規の遵守、雇用契約の管理といった、いわゆる人事・採用系や給与・厚生系のオペレーション業務を指します。
人事部門にある程度の人数がいる会社なら、「人事企画部」と「人事管理部」に分ける方法があるでしょう。人事企画部が「戦略」や「企画」を、人事管理部が「運用・管理」や「オペレーション」を担当し、それぞれの職務に専念するのです。
しかし人事担当者が1人しかいない「ぼっち人事」の場合は、そうはいきません。たとえば給与計算などは経理の担当者がやってくれるかもしれませんが、それ以外にもやらなければならない労務管理のオペレーションは多岐にわたります。
そしてそれだけではなく、経営者は「人事・採用」「給与・厚生」「育成・評価」に関する戦略や企画を期待しています。人事担当者は、オペレーションだけに埋没していてはダメなのです。労務管理においても戦略・企画につながる情報収集をしなければいけません。
これらを踏まえ、労務管理について、大事なポイントを紹介します。1つは、オペレーションはできれば社会保険労務士などの専門家にアウトソーシングすること。もう1つは、社員や退職予定者に話を聞いて社内の問題を適切に把握することです。
労務管理では、さまざまな問題が起こります。労働時間の管理ができていない、残業代を適切に払っていない、36協定をちゃんと結べていない、給与計算ミスが出る…。特に勤怠管理や時間管理がずさんなケースが多いです。オペレーションの仕組みに漏れがある場合は、まずはその穴を埋めなくてはいけません。
コンプライアンス(法令遵守)が求められる時代にあって、法令違反は許されません。人事担当者は労働法規というルールの中で適法に会社の仕組みを構築し、運用していくことが求められるため、労働法規の基礎的な知識も必須となります。
ただ、労働基準法をはじめとする現在の労働法規は、すべて網羅し把握するのは容易ではありません。労働法規は比較的頻繁に改定が行われるため、キャッチアップするだけでも大変です。これらすべてを1人でやろうと思うとドツボにハマります。
労務管理のオペレーションに関しては、社会保険労務士などの専門家に相談したほうがいいでしょう。社労士さんは、労働法規のエキスパート。企業における採用から退職までの「労働・社会保険に関する諸問題」に対応してくれるなど、業務の内容も広範囲にわたります。その他、戦略・企画系の職務に関しては業務委託や副業で企業人事を担っている人事経験者や人事コンサルなどを活用し、相談にのってもらうことをおすすめします。
人事の職務は、労務管理のオペレーションだけではありません。ぼっち人事が注力すべきは、上記の表の「戦略」「企画」、または「運用・管理」の部分。人事担当者に任命されたということは、会社には解決しなければならない課題があるはずです。まずはそれを見つけ、是正策に取り組むことから始めましょう。