労務管理における緊急性の高い課題としては、退職率を下げることが挙げられます。退職者が多いようであれば、その出血を止めなければいけません。
そのために必要なのは、退職者に話を聞くこと。「表向きは家庭の事情ということにしておくけど、本当のところはどうなの? 誰にも話さないから」といって、退職者に本音を聞いてみてください。すでに退職願を出しているのなら、退職者は誰にも忖度する必要はありません。退職を決めた本当の理由を話してくれるはずです。
退職者の本音は、貴重な情報源。「実は上司が…」「職場が…」「キャリアステップが…」といった会社の知られざる課題や問題点が浮き彫りになってきます。
退職や休職が多いのは、会社が病気にかかっているということです。「その原因は何だろう」と考え、経営者や管理職と話し合うのは人事にとって重要な職務。退職は連鎖しますから、退職者の本音を参考にして退職が増えるのを食い止めるのです。
退職や休職が増えていても放置している人事担当者もいますが、この問題から逃げたらダメです。オンラインでもいいですが、本音を聞くためには、会って話すのが理想的。地方の拠点であっても、直接会いに行くことをおすすめします。
退職者に本音を聞くと、意外な課題が浮き彫りになってきます。一般的に多いのは、労働時間、上司のマネジメント、キャリアステップにおける3つの問題点です。
労働時間が長くなると、「うつ病」などの精神疾患の要因になります。労災認定基準では、発症前1ヶ月間の時間外・休日労働がおおむね100時間を超える場合、または2〜6ヶ月の月平均時間外・休日労働がおおむね80時間を得る場合、業務と発症の関連が強いと評価されます。2週間以上の連続勤務、心理的負荷があるハラスメントや転勤などの原因があれば、短い残業時間でも関連が強いと判断されることもあります。
退職者が「うつ病」などの精神疾患ではなかったとしても、同じ環境で働いている社員がメンタルヘルス不調に陥っているかもしれません。また36協定の法定の限度時間は1ヶ月「45時間」、1年「360時間」が上限です。その時間を超えれば36協定違反となるため、それぞれ確認して是正策を講じなくてはなりません。
上司のマネジメントで多いのは、やはりハラスメントの問題です。パワーハラスメント(パワハラ)が生じると、職場内の秩序を乱し組織の正常な業務運営に支障を来たします。社員のモチベーションも減退し、精神的な障害に陥る原因にもなります。退職者から話を聞き、パワハラに該当するような行為はなかったか必ず確認しましょう。
セクハラ(セクシャルハラスメント)も、被害者の精神的なダメージが大きく日常業務にも影響を及ぼす行為です。セクハラの判断基準は「被害者が性的に不快な行為であると感じているか」であり、厳密な規程を設けることは困難。だからこそ人事担当者は、退職者から本音を聞き、職場の状況を把握することが重要になります。
キャリアステップが見えない会社は、退職者が増えます。退職者が「将来の不安」を理由に辞めるようであれば、人事制度を見直す必要があるかもしれません。この問題については、前回「中小企業ほど「人事制度」が人材育成のカギになる」で詳しく解説しています。こちらを参考にしてみてください。
退職者に本音を聞くことは、人事・採用、給与・厚生、育成・評価に関する戦略や企画にも繋がっていきます。ぼっち人事の皆さんは、まずはここから注力していきましょう。
次回につづく