最近では、働き方改革によって働く日数の制限がかかってきたので、工期も長くなりがちです。また、エネルギーコストの上昇や、円安による輸入資材の高騰など、完成までの費用を見通すことは難しいのです」
業界全体として、大型工事が難しくなってきているということだろうか。
「最近は、主要な駅前の商店街をまとめてタワマンにして、低層階に地権者たちの店舗を入れて上層階を分譲する、いわゆる市街地再開発事業が花盛りですが、ゼネコンが工事の請負を躊躇しています。事業者側としても、あまりにも工事費が高騰すれば採算が取れなくなるので、計画が止まったりすることがあります。今年、中野サンプラザの建て替え計画が頓挫したり、五反田TOCビルが一旦閉館しながら店舗を元に戻して再オープンしたのも、建築費の高騰などが要因です」
建築費の値上がりは、大手ゼネコンがリスクを負えないほどの勢いで加速しているのか。
「特にここ3~4年、建築中に部材が急激に値上がりしています。国土交通省が発表している建設物価調査会のデータに『建設工事費デフレーター』という資料があり、それによると2021~23年のオフィスの鉄骨、マンションのRC造の単価が3割以上上がっています。現場の感覚では4~5割くらい上がっていると思います。麻布台ヒルズは2019年の着工ということですから、契約はもっと前だと考えられ、当時は600~700億円で請け負ったといわれています。それが工事の遅延などで750億円の赤字ということですから、実態としては1300億円以上の工事費になった状況でしょう。これを床面積で割り戻して計算してみると、おそらく坪単価100万円台前半で三井住友建設は請け負い、実際の仕上がりは220~230万円になったと考えられます」
三井住友建設は、予定外の追加工事や工期遅延などによって多額の損失を出したわけだが、予定通りに進んだとしても、麻布台ヒルズは赤字になった可能性があるのだろうか。
「実はすでに完成しているA棟を請け負った清水建設も、大赤字だったようです。正確な金額は定かではありませんが、数百億円規模の損失です。したがって、三井住友建設が予定通りに工事を進めることができても、赤字になった可能性は高いでしょう」
ここ数年、食品や日用品の値上がりが続いているが、建築現場でも資材の高騰が勢いを増している。エネルギーコストの増大や円安による輸入コスト増なども、暗い影を落としている。そろそろ建築業界にとっての明るい話題が望まれる。
(文=Business Journal編集部、協力=牧野知弘/オラガ総研代表取締役)