東洋経済オンラインは、準大手ゼネコンの三井住友建設が現在建設中の「麻布台ヒルズ」で750億円に上る巨額損失を計上したと報じている。三井住友建設は森ビルが主導する麻布台ヒルズのうち、「麻布台ヒルズレジデンスB」の建築を担当。当初、2023年3月31日に竣工予定だったが、地下工事の設計変更や部材の不具合に対して不適切な補修が発覚したことなどで工期が遅延し、2025年8月末にまでずれ込む見通し。三井住友建設は、なぜこれほどまでに巨額の赤字を出したのか。専門家の見解を交えて追ってみよう。
東京都港区に、森ビルが主導して「六本木ヒルズ」と同様の再開発事業を計画。バブルが崩壊する以前の1980年代から計画を進めていたともいわれ、大規模な建設となった。「麻布台ヒルズ森JPタワー」「麻布台ヒルズレジデンスA/B」「麻布台ヒルズガーデンプラザA/B/C/D」から成り、オフィス、住宅、医療施設、商業施設、インターナショナル・スクールも併設。特に麻布台ヒルズレジデンスは住宅主体で、レジデンスBの高さは262.83m、レジデンスAの高さは237.20mという超高層ビル。
当初の計画では、いずれのビルも2023年3月31日に竣工予定だったが、森JPタワーとガーデンプラザは3カ月遅れ、レジデンスAは半年遅れでの竣工となった。さらに、レジデンスBは現時点でまだ完成していない。
工事が遅れた要因は、まず2021年の段階で基礎となる地下工事が計画どおりに進まず、設計変更を余儀なくされたことにある。さらに2023年、部材の一部に不具合が生じ、その不具合に不適切な補修が行われたことが発覚。そのたびに、竣工予定は延び、現時点では2025年8月末になる見込みといわれている。その影響で2年連続の赤字決算となり、近藤重敏社長と君島章児会長が責任を取って2024年4月1日付で退任した。
なぜ三井住友建設は巨額の損失を出したのか。レジデンスAを施工した清水建設も同じように損失を出しているのか。そもそも、タワーマンション建設は損失を出すリスクがあるものなのか、それとも麻布台ヒルズ特有の要因があったのか。不動産事業のコンサルティングを手掛けるオラガ総研代表取締役の牧野知弘氏は、昨今の不動産資材の高騰などに加え、麻布台ヒルズの特殊要因もあると語る。
「麻布台ヒルズのB棟について、物件の特殊要因がひとつあります。それは通常の工事に比べて計画地周辺に地下鉄や高速道路が近接しており、杭打ち等の地下工事の際に、当初見積もった以上の大きな工事が必要になったようです。建築は一般的に請負契約を結びますが、その時の請負金額では到底まかないきれないほどの追加工事が発生したといわれています。また、それに伴って工期が大幅に延びてしまい、納期を守れなくなって違約金が発生しました。さらに、建物を建てている間に部材の一部に不具合が発生し、一部で工事をやり直し、再度工期が延びたのです。工期が延びれば人件費などもかさむので、損失も増えることになります。
一方で、タワーマンションをはじめとして大型施設の建設を請け負うこと自体が、非常に難しくなってきているという側面もあります。それは、大型の工事になるほど、請負契約を結んでから着工、竣工までの期間が長くなるので、何年も後までの工事金額をすべて把握することが困難になっているからです。昨今、建築費が歳月とともにどんどん上昇しており、資材や設備費など後から加わる費用が想定以上に上がるケースも出てきています。そのため、大手ゼネコンも大型工事に対しては腰が引けているのが現状です。