セブン&アイ・ホールディングス(HD)が進めている、GMS(総合スーパー)・イトーヨーカ堂や食品スーパー・ヨークベニマルをはじめとする非中核事業の売却。イトーヨーカ堂といえば近年は収益力の低さから「セブン&アイグループのお荷物」といわれ、海外投資ファンドから同グループからの分離を要求されたこともあったが、11月に締め切られた売却の1次入札には住友商事、米投資ファンドのベインキャピタルやKKRなど7社以上が応札。利益率が低いとされるスーパーマーケット業態、さらには業績低迷が続くイトーヨーカ堂をめぐって、なぜ争奪戦の様相が濃くなりつつあるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
イトーヨーカ堂の業績は苦しい。直近では2024年2月期まで4年連続で最終赤字が続いており、26年までに33店舗を閉鎖する方針を固め、北海道・東北・信越地方からの撤退を発表。今後はGMSは首都圏に集中させる方針を示している。その収益力の低さから、かねてからセブン&アイグループの企業価値を低下させていると指摘されており、セブン&アイHDは15年には米サードポイント、22年には米バリューアクトからイトーヨーカ堂の分離要求を受けていた。
業績低迷を受けてイトーヨーカ堂はリストラ策に取り組んできた。前述の店舗閉鎖のほかに、自社開発のアパレル事業からの撤退、700人の人員削減を実施。今月には、26年2月までに現在約6000人いる正社員の17%にあたる1000人規模の人員削減を行うと発表。ネットスーパー事業からも撤退する。
事態が大きく動く契機となったのが、カナダの大手コンビニエンスストア運営会社、アリマンタシォン・クシュタール(ACT)によるセブン&アイHDへの買収提案だ。8月、北米をはじめ世界約30カ国に約1万7000店舗を展開するACTがセブン&アイHDへ買収提案を行っていることが表面化。1株あたり14.86ドル(買収総額は約5.5~6兆円)で買収を提案し、これを受けセブン&アイHDは社外取締役で構成する独立委員会を設置して検討し、「潜在的な株主価値の短中期的な実現について著しく過小評価している」との理由で拒否。ACTは9月、1株あたり18.19ドル(買収総額は約7兆円)に引き上げて再提案を行ったが、米国の独占禁止法(反トラスト法)や、外資による日本企業への出資を規制する外為法に抵触する可能性もあり、先行きは不透明だ。
セブン&アイHDはACTによる提案に賛同の姿勢を示さない一方、対抗策を重ねてきた。10月、事実上の買収防衛策として、傘下のイトーヨーカ堂やヨークベニマルをはじめとする非中核事業を連結子会社から外す方針を固めた。中間持ち株会社「ヨーク・ホールディングス」を設立し、傘下にイトーヨーカ堂、ヨークベニマル、赤ちゃん本舗、ロフト、「デニーズ」などの外食事業のセブン&アイ・フードシステムズなど非コンビニ事業会社を入れる。さらに、株式の過半を26年2月までに売却すると発表し、前述のとおり11月に締め切られた1次入札には7社以上が応札したとみられる。
業績が低迷するイトーヨーカ堂をはじめ、非中核事業としてセブン&アイHDから切り離された新・中間持ち株会社に、総合商社の住友商事や海外の有力ファンドが興味を示している理由は何なのか。流通アナリストの中井彰人氏はいう。
「店舗閉鎖や人員削減のニュースが相次いだこともあり、イトーヨーカ堂が経営危機に陥っているかのようなイメージを持たれがちですが、経営指標を細かく並べてみると、実態は大きく異なります。まずストックベースでは、純資産は5000億円以上あり、ほぼ無借金といえる状態で、自己資本比率は70%を超えています。フローベースでは赤字の年もあるものの、ものすごく大きな赤字を計上することはなく水面の上下を行ったり来たりしている状況です。よって、『最近は少し収益力が弱っている普通の老舗企業』という表現が実態に近いのではないでしょうか。