ここ数年で一気に不採算店舗や残しておくとマイナスの効果のほうが大きい地方の店舗を整理し、人員も1700人規模で削減し、大幅なリストラが完了して経営効率が改善された状態で売却されます。閉鎖する店舗は、残しておくと物流効率上コストが高くついてしまう地方の店舗と、1970~80年代頃に開業した首都圏の駅近の老朽化店舗で、狭い立地に複数階建てとなっているためお客にしてみると使い勝手が悪い時代遅れの店舗が大半です。こうした店舗を一気に閉鎖させることは大きな経営改善につながります。
一方で、店舗価値向上に向けた施策も着実に進めています。たとえば食品売り場以外のフロアから自前の売り場を撤去し、カインズやダイソーとその新業態であるスタンダードプロダクツ、スリーピーといった外部の人気ショップを積極的にテナントとして入れ、アダストリアがイトーヨーカ堂のアパレルブランドとして手掛けるFOUND GOOD(ファウンドグッド)も展開しています。
赤字解消のためにやるべきことをすべて実行した結果として、イトーヨーカ堂を含む首都圏スーパーストア事業はEBITDA(利払い前・税引き前・償却前利益)ベースで26年2月期に550億円を見込んでおり、イトーヨーカ堂単体だけで年間売上高は約8000億円もあります。加えて、セブン&アイグループのプライベートブランド(PB)『セブンプレミアム』の開発をリードした商品開発能力、そして店舗オペレーション能力の高さに定評があり、約2000億円の純資産を持つヨークベニマルもついてくるとなれば、『欲しい』と考える企業が多く現れて争奪戦となるのも不思議ではないでしょう」
では、株の取得を狙う企業は、どのような成長戦略を描いているのか。
「たとえば住友商事であれば、自社で手掛ける食品事業をはじめとする各種事業の川下として活用することもできるでしょうし、引き続き一定の株式を保有するセブン-イレブンの新保有会社との関係を使ってセブン-イレブンの商材に食い込めるかもしれません。そうなれば、イトーヨーカ堂も含めてイオンをも上回る巨大な流通網を手に入れられる可能性も出てきます。住友商事が保有する食品スーパーのサミットとのシナジーも期待できます。
一方、ファンドであれば、最終的には企業価値を向上させて他社に売却したり上場するというイグジット戦略を描くことになるでしょうし、西武・そごう売却で見せたファンドの動きのように、不動産として活用する手もありますし、エリアやさまざまなかたちで利益をあげることを考えているでしょう。事業ごとに細分化して、欲しがる企業へ売却するという手もあります」(中井氏)
(文=Business Journal編集部、協力=中井彰人/流通アナリスト)