破産を決定づけたのも、ミュゼプラチナムの買収だとみられている。ミュゼプラチナムが代金未払いで広告会社に対し抱えていた負債について船井電機HDが連帯保証しており、船井電機の9割の株式を広告会社が仮差し押さえするという事態が起きていたという。これらの結果、船井電機からは秀和による買収後、約300億円の資金が流出した。
秀和による買収で船井電機の財務は大きく棄損した。買収前の20年度の時点では、船井電機は売上が804億円、営業損益が3億円の赤字、最終損益が1200万円の赤字で、現預金は344億円、純資産は518億円あった。だが、秀和による買収後わずか3年で負債総額は461億円に膨れ上がり、117億円の債務超過に陥った。昨年度の売上高は3年前の約半分の434億円、最終損益は131億円の赤字となった。
また、船井電機HDは20年度には518億円あった純資産が、21年の秀和システムHDによる買収を経て23年度には202億円にまで減少している。
12月3日付「朝日新聞」記事によれば、9月に船井電機社長を退任した上田智一氏が退任直前に同社の経営権を1円でファンドに売却し、さらに上田氏と同氏が所有する会社が船井電機から借りていた11億円超の返済を免除する旨もファンドとの間で取り交わされていたという。いったい何が起きていたのか。M&Aに詳しい金融業界関係者はいう。
「最近、大手・中堅の仲介会社が特定のストロングバイヤーに対し、潤沢な現金を持っている会社を買い取る話を持ち掛け、買った側はすぐに現金を抜いてどこかに消えるという事例が増加しています。船井電機もその被害にあったようにしか見えません。ただ、会社規模がとても大きいことに加えて、M&A界隈では有名なある企業も絡んできたりして話題になっていましたが、経営者が1円で経営権を譲渡したという話には『そんな手があったのか』ととても驚きました。
オーナー企業は株主と社長が同一なので、社長がやりたい放題にやれます。なぜならば、利益相反行為だろうが何だろうが、株主代表訴訟の標的になりえないからです。船井電機は非上場化することによって事実上オーナー社長が経営する状態となり、社長のやりたい放題になったということです。そして資産が底をついて“もぬけの殻”になったところで、手続き的には法に背かずに残りカスの法人を消滅させ、社長はファンドに経営権を売って、さらに『社長が船井電機に借りている11億円超は返さなくていいからね』という約束をファンドと取り交わすことで、合法的に借金を早期に帳消しにしたわけです。この手法には驚きしかありません。ただ、なぜそこまでするのかは不明ですが、いろいろなものをセットで処理したいという意図があったからだと推察されます。
報道では船井電機の社長が経営権をファンドに譲渡したとされていますが、本当にファンド形式で運営していたとしたら出資者がいるので、1円で取得した会社が持っていた11億円以上の債権を放棄する、さらには条件によっては1円で買い戻させるということは、許されることではありません。なぜなら、ファンドは利益を上げて出資者に還元しなければならないからです。よって、純粋なファンドではない存在である可能性も考えられます」
今回のような経営権の事実上タダでの譲渡、その後の破産というのは、よくあるケースなのか。
「赤字かつ債務超過で企業価値がマイナスの会社が1円で売買されることはよくあります。一方、一般的に企業の経営者はなんとか持続させようと最大限の努力をするものであり、船井電機のように経営者が積極的に自社を潰しにかかるようなことは正常ではありません。通常とは異なる何らかの論理や動機が働いたと考えられます」(同)