「船井電機は現金を抜かれて倒産させられた」社長は経営権を譲渡→借金帳消し

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船井電機(「Wikipedia」より)

 船井電機と同社を2021年に買収した秀和システムホールディングス(HD)をめぐる不可解な資金の流れが徐々に明らかになりつつある。12月3日付「朝日新聞」記事によれば、9月に船井電機社長を退任した上田智一氏(秀和システムHD、および親会社の秀和システムの代表取締役)が退任直前に船井電機の経営権を1円でファンドに売却していたことが判明。さらに3日のNHKの報道によれば、船井電機の破産管財人が親会社・FUNAI GROUP(旧船井電機HD)の破産申し立てを行い、先月21日に東京地裁はFUNAI GROUPの資産を保全する保全管理命令を出していたという(破産手続きの開始決定の可否は未決定)。秀和による買収以降、船井電機から約300億円の資金が流出するなど、資金の流れに疑問が寄せられるなか、10月には取締役の一人が準自己破産を申し立てて東京地裁から破産手続き開始の決定を受けた一方、同社会長が東京地裁に民事再生法の適用を申請。同一企業が破産と民事再生をほぼ同時に申請するという異例の事態が生じている。背景には何があるのか。金融業界関係者は「最近、潤沢な現金を持っている会社を買い、すぐに現金を抜いてどこかに消えるという事例が増加している」と警鐘を鳴らす。

 東京地裁がFUNAI GROUPの資産を保全する保全管理命令を出したことにより、同社は自社保有財産を自由に処分できなくなった。

「FUNAI GROUPは船井電機の持ち株会社として秀和が23年に設立したもので、船井電機はFUNAI GROUPに多額の貸し付けを行って焦げ付きが発生し、それが船井電機の破綻の要因の一つとなった。NHK報道によれば、その貸し付け金額が253億円あまりであったことが判明した。創業家側の取締役の一人が東京地裁に準自己破産を申し立てて破産手続き開始が決定したのが10月24日で、直後にそれを知った会長の原田義昭氏(元環境相)が同決定の取り消しを申し立て、さらに原田氏は今月2日に東京地裁に民事再生法の適用を申請している。以上の経緯を踏まえると、これ以上、船井電機およびFUNAI GROUPから何者かの主導により資産が流出しないよう、原田氏側の意向で裁判所にFUNAI GROUPの資産を保全する保全管理命令を出させるよう動いたのではないか」(金融業界関係者)

 ちなみに船井電機が東京地裁から破産手続き開始の決定を受ける際、同社は準自己破産を申し立てていたが、一般的に同社ほどの規模の大企業は、取締役会など会社としての正式決定を受けて裁判所に自己破産を申し立てる。準自己破産とは、なんらかの理由で正式に取締役会の承認を得ている猶予がない場合などに取られる手段であり、一部の取締役のみでも申し立てが可能。

 全従業員も即時に解雇され、このまま破産するとみられたが、準自己破産の申し立て直前の10月に代表取締役会長に就いていた原田氏は、破産手続き開始決定の直後に取り消しを求めて東京高裁に即時抗告。さらに今月2日に東京地裁に民事再生法の適用を申請して受理された。原田氏は、準自己破産の申立人は10月に開催された「みなし株主総会」で取締役を解任されており、申し立ての権限を有していなかったと説明している。

秀和による買収で船井電機の財務は大きく棄損

 船井電機が秀和システムHDによって買収された後の資金の流れには不可解な点が目立つ。船井電機は21年に秀和システムHDのTOB(株式公開買い付け)を受け入れて上場廃止となり、秀和の上田智一社長が船井電機社長に就任したが、秀和は船井電機を買収する資金のうち180億円を銀行から借り入れで調達する際、船井電機の定期預金を担保にし、船井電機に保証させるかたちにしていた。LBO(レバレッジド・バイアウト)と呼ばれる手法だが、最終的に担保は銀行に回収されている。23年、秀和は船井電機の持ち株会社として船井電機HD(現FUNAI GROUP)を設立し、同年に船井電機HDは脱毛サロン・ミュゼプラチナムを買収したが、ミュゼプラチナムへの資金援助が原因で船井電機には33億円の簿外債務が発生。さらに船井電機は船井電機HDに多額の貸し付けを行い、焦げ付きが発生していた。