指名委員会は、内田社長の活動もあってグプタ氏を取締役候補から外すことを決定した。それでもグプタ氏はCOOに残留することを強く求めたが、それも叶わず、日産は(23年)6月16日にグプタCOOが『新たなキャリアを追求するため(定時株主総会が開かれる)6月27日をもって退社する』と発表した。日産のある幹部は『高額な退職金と引き換えに、黙って退任することを受け入れた』という。定時株主総会では、退任するグプタ氏に発言を求める株主もいたが、議長を務めた内田社長が発言させなかったという」(ジャーナリスト・桜井遼氏/23年6月30日付当サイト記事より)
このほか、今年3月には、公正取引委員会が日産が下請法に違反しているとして再発防止を勧告するという問題も発生。下請けの自動車部品メーカー36社への支払代金約30億2300万円を不当に減額していた。日産は下請けメーカーに対し、契約書で定められた発注額から「割戻金」として一部を差し引いた代金を支払っていた。報道番組『WBS(ワールドビジネスサテライト)』(テレビ東京)によれば、下請けに金額を決めないままに数量と納期だけを指定して製造させ、納品時に見積額から5割を減額させることもあったという。
そうしたなかで伝えられたマーCFOの退任。背景には何があるのか。
「今年度通期ベースで多額の赤字が見込まれ、加えて大規模な人員削減を含むリストラが進むなかでCFOが退任するというのは異例の事態といっていい。業績不振のため、社内で内田社長の求心力が急速に衰えており、内田社長では再建はできないという声が社内・取引先の間で広まっている。日産はゴーン氏の逮捕後の19年にも1万人以上の人員削減を行っているが、優秀な人材ほど辞めるという状況が続いており、幹部クラスの流出も続くとみられている。新車投入やモデルチェンジの頻度が明らかに少なくなっていることも社内の停滞ムードを強めており、泥船からどんどん人が逃げるかのように流出は続くだろう」(自動車メーカー関係者)
資金調達面でも苦しい状況になりつつある。4~9月期に手元資金は5000億円以上減り、3月末からみると3割の減少。26年3月期には5000億円以上の社債の償還期限を迎える。ムーディーズ・ジャパンは先月28日、日産の発行体格付けの見通しを「安定的」から「ネガティブ」に変更し、格付けは投資適格級の下限である「Baa3」のまま据え置いたものの、業績不振で格付け会社各社が日産の格付けを引き下げる動きが出れば、社債発行時により大きな上乗せ金利が必要となるなどして資金調達コストが上昇することになる。
ルノーとの関係もセンシティブだ。日産株の43%を保有する筆頭株主だったルノーの出資比率は昨年11月に15%に引き下げられたものの、常にルノーとの関係に配慮した経営を行う必要がある。英紙フィナンシャル・タイムズは先月26日、日産が経営再建策の一環としてホンダに株式を保有させることも検討していると伝えている。
(文=Business Journal編集部)