日産自動車のスティーブン・マー最高財務責任者(CFO)が近く退任する見通しであると先月30日付「ブルームバーグ」記事が報じた。4~9月期の純利益が前年同期比94%減の192億円となり、グローバルで生産能力の20%削減と従業員9000人の削減を行うなど業績不振が鮮明になりつつある日産だが、内田誠社長兼CEOがトップに就任以降、経営幹部の退任が相次ぐなど経営的に安定しない状況が続いている。自動車メーカー関係者は「幹部のみならず、まるで逃げ出すように日産の将来を見限った優秀な社員の退職が続いている」というが、背景には何があるのか。そして、内田体制で現在の難局を乗り越えることができるのか。業界関係者の見解を交えて追ってみたい。
日産の2024年4~9月期連結決算は、売上高は前年同期比1.3%減の5兆9842億円、営業利益は同90.2%減の329億円、経常利益は同71.9%減の1161億円、純利益は同93.5%減の192億円。当初は3000億円の黒字予想だった25年3月期通期の純利益を「未定」に修正し、前述のとおり大幅な人員削減などのリストラ策を発表。販売不振が続く米国では約1000人が年内に退社する見込み。
中長期の経営計画の見直しも余儀なくされている。3月に発表した中期経営計画「The Arc(アーク)」では26年度にグローバル販売台数を23年度から100万台増となる440万台に、営業利益率を6%以上に引き上げるとしていたが、11月には撤回した。
業績不振の大きな要因が海外事業の悪化だ。特に前年まで好調だった北米市場で電気自動車(EV)の販売が失速してハイブリッド車(HV)人気が盛り上がるという変化が生じ、HVを販売していない日産の売上が低迷。販売台数を維持するための販売奨励金への依存が高まり、これが収益悪化要因となり4~9月期の北米事業の営業損益は赤字に陥った。
ここ数年、日産の業績は安定しない。20~21年3月期は最終利益ベースで大幅な赤字となり、22~24年3月期は黒字を確保したものの、25年3月期は「数千億円の赤字になる可能性がある」(全国紙記者)。
業績と同様に経営体制も落ち着かない。日産は2兆円の有利子負債を抱え破綻危機に陥り、生き残り策として1999年に仏ルノーと資本提携し、当時ルノー副社長だったカルロス・ゴーン氏が日産のCOOに就任。ゴーン氏は2.1万人の人員削減や部品などの調達先の50%削減などを盛り込んだ「日産リバイバルプラン」を進め、01年3月期には純損益が3311億円の黒字に転換する「V字回復」を果たした。だが、18年に会長に就いていたゴーン氏が逮捕され、19年には後任の西川廣人氏も不当な報酬が発覚して辞任。これを受け、内田社長兼CEO―アシュワニ・グプタCOO―関潤副COOによるトロイカ体制が発足したが、直後に関氏は辞任した。
「日産の生え抜きの技術者である関氏としては、商社出身の中途入社で自分より車ビジネスに精通していない内田氏の下で働くことに反発があった。加えて、関氏は筆頭株主のルノーから疎んじられ、残って頑張っても日産ではもう自分の将来はないと諦め、日本電産(現ニデック)に“転職”した」(全国紙記者)
さらにグプタ氏も23年に退任した。
「トロイカ体制が崩れた日産は、内田社長とグプタCOOによる2人体制で経営していくはずだった。しかし、実態はグプタ氏が経営の主導権を握り、不振にあえいでいた日産の経営立て直しを進めてきた。内田社長は社内でも影が薄く『お飾り的な存在』と揶揄する社員も少なくない。そしてグプタ氏は社外取締役の一部と結託して、自身を内田氏と並ぶ共同CEOに昇格させることを画策。内田社長の手でこれは阻止されたが、両者の関係に火種を残すことになった。