「農家から預かった資金を溶かす」農林中金、また資産運用失敗で1.5兆円赤字

 預金残高ベースで、ゆうちょ銀行、メガバンクに次ぐ規模を誇る農林中金だが、その成り立ちはやや特殊だ。

 JAとは農業協同組合、いわゆる農協の呼称であり、組合員である農家向けに農業技術の指導をしたり、農業生産に必要な肥料や農薬などの資材を共同で購入したり、農畜産物を共同で販売したりしている。このほか、貯金、共済、住宅ローンや教育ローンなどのローン、融資などの信用事業や、生命、建物、自動車などの共済事業も行っている。共済とは保険のことであり、JA共済連(全共連)が仕組開発、審査、査定、資産運用などを担当。各地のJAがJA共済の取り扱い窓口となっている。

 JAグループはJA共済連のほか、JAグループの総合指導機関であるJA全中、農家への技術・経営指導、資材供給や共同利用施設の設置、農畜産物の運搬・加工・貯蔵・販売などを行うJA全農などで構成。JA・JF(漁業協同組合)からの出資や企業からの預金、JA・JFを通じて個人から預かった資金を運用するのが農林中央金庫だ。ちなみに「JAバンク」とは、JA、農林中金とその都道府県組織であるJA信連から構成されるグループの名称である。

 農林中金が他の銀行と大きく異なる点は、資産のうち貸出金が占める割合が約2割と低い一方、有価証券が4割を超え高い点だ。企業などへ幅広く融資が可能な銀行と異なり、農林中金の投融資先は農業関連に限定されるためだ。その一方でJAグループ各社を通じて農業関連従事者から集まる預金は約64兆円と、メガバンクの三菱UFJ銀行の約3分の1の規模であり、融資業務で大きく利益をあげられないなか、資産を運用して利益をあげ、預金を預けるJAグループ各社に「奨励金」と呼ばれる上乗せ金利を還元しなければならないという事情を抱えている。

「JAグループはとにかく規模が大きく従業員数も膨大なため、農林中金からもたらされる奨励金をあてにしている面もある。農業従事者が減るなかでJAグループの規模は相変わらず大きく、組織を維持するためにさまざまな無理が生じている。今回の損失発生を受けて農林中金はJAを引受先として1.2兆円の資本増強を行うとしているが、リーマンショックのときもJAを引受先として1.9兆円の資本増強をしており、農林中金としては頼みにくい面もあるだろうし、JA側も『またなのか』という感覚だろう」(元JAグループ社員)

組織の規模として大きすぎるJAバンク

 農林中金は08年のリーマンショックの際にも、米国の低所得者向け住宅ローン投資で巨額の損失を出し、09年3月期に約5000億円の最終赤字に転落。JAを引受先として1.9兆円の資本増強を行った。1995年に浮上した住宅金融専門会社(住専)問題では、農林中金をはじめとする農林系金融機関から5兆円以上の資金が住専に入り、住専がそれにより不動産融資を拡大させ、生じた8兆4000億円に上る不良債権の処理のために6850億円の公的資金が投入された。当時、農林中金の無責任な投資による損失を穴埋めし、さらに農協を保護するために多額の税金が投じられたとの批判が出た。

「農林中金は農家をはじめとする農業関連従事者から集めた巨額の資金を、運用の失敗で再三にわたり“溶かしている”といえる。ノウハウ不足は明らかで、今後も数年ごとに同じような失敗を繰り返す可能性が高く、そのたびにJAに泣きつくわけにもいかないだろう。農業関連の資金ニーズの低下を踏まえれば、農林中金を含むJAバンク全体が組織の規模として大きすぎ、スリム化をはじめ抜本的な見直しを迫られている」(元JAグループ社員)

(文=Business Journal編集部)