2日に羽田空港の滑走路で発生した日本航空(JAL)機と海上保安庁の航空機の衝突事故。JAL機は機体が全焼するほどの損害を受けるなか、乗客乗員379人全員が無事に脱出。客室乗務員(CA)らによる迅速かつ的確な避難誘導と、それに冷静に従った乗客の行動が注目される一方、航空機が着陸態勢に入る際に機内で順守するようアナウンスされる、さまざまなルールの意味・目的が改めてクローズアップされている。
事故発生は2日17時47分頃。管制官から着陸許可が出された札幌発JAL516便(エアバスA350型機)がC滑走路に着陸する寸前、滑走路に進入した海上保安庁の航空機(海保機)と衝突。JAL機の乗客は全員、脱出シューターを使って脱出。海保機に搭乗していた職員5人が死亡し、機長は脱出した。
国土交通省が3日に公開した事故発生時の管制官とJAL機、海保機などとの交信記録によれば、管制官はJAL機に対しC滑走路への着陸許可を出していたが、海保機には滑走路への進入を許可していなかった。管制官は海保機に滑走路へつながる誘導路上の停止位置まで走行するよう伝達しており、海保機の機長は離陸許可を得たという認識を持っていたことがわかっていることから、なんらかの理由で機長が誤解をした可能性も持たれている。航空経営研究所主席研究員で桜美林大学客員教授の橋本安男氏はいう。
「国の運輸安全委員会と警視庁による調査結果を待たないと詳細はわかりませんが、管制官は海保機に『ナンバーワン』(離陸待ち中の航空機のなかで最初に離陸予定であることを意味する)と伝えており、海保機の機長が『離陸許可を得ていた』と話していることからも、『ナンバーワン』の意味を取り違えてしまったのではないかという見方も出ています」
国内航空会社最大手で豊富なノウハウを持つJALだからこそ全員脱出という結果となったという面はあるのか。
「国内の航空会社は航空法に基づき定期的に非常救難対策訓練を行うよう義務付けられており、大手のJAL・ANAとそれ以外の航空会社の間で救難対策の面でノウハウに大きな差はないと考えられます」(橋本氏)
JAL機では乗務員と乗客の的確な行動が全員脱出という結果につながったが、機体が着陸態勢に入った後のさまざまなルールを乗客がきちんと順守していたことも全員の無事につながったという見方もある。一般的に飛行中の航空機内では、航空会社によっては着陸態勢に入る際に以下の内容を守るようアナウンスされる(内容は航空会社によって異なる)。
・座席横の窓の「日よけ(シェード)」を上げる(開ける)
・電波を発するすべての電子機器を使用しない
・リクライニングシートを元の位置に戻す
・座席前のテーブルを使用しない(畳んで元の位置に戻す)
・シートベルトを着用する(席から立たない)
・機体の車輪が滑走路に着いてからも「シートベルト着用ランプ」が消えるまで(機体が完全に停止するまで)シートベルトを自己判断で外さない
また、屋外が暗い時間帯には機内の照明が落とされ暗くなる場合があるが、これらのルールや決まりがなぜ設定されているのかは意外に知られていない。橋本氏はいう。
「リクライニングシートとテーブルの使用禁止は、不測の事態が生じた際のケガ防止や動作スペースの確保が目的であり、これは世界標準です。以前は窓の『日よけ』を上げるのが一般的でしたが、まさに今回のような事故が生じた際に外部の状況を機内から目視で確認できるようにするため。現在は航空会社によってルールは異なっているものの、緊急脱出用ドアの窓はCAが機外の様子を視認できる状態を確保するようになっている。