国内生産力を伸ばすべきだが、打破の鍵となるのは養殖だという。
「世界的にも天然物より養殖の生産量が伸びており、ノルウェーやチリでは企業がAIや自動餌やりなど最先端技術を用いて大規模な養殖を行っています。しかし日本はというと、漁業組合による小規模な養殖業が主流で、世界的な流行から外れてしまっています。日本の養殖業は、漁業法に基づき免許を発行した事業者に区画漁業権が与えられ、養殖が認められたのですが、漁業法改正以前は優先順位が地元の漁業協同組合が第一になっており、企業が参入しづらくなっていました。現在は漁業法が改正され、優先順位は撤廃されましたが、既存の免許を取得している者が漁場を適切かつ有効に利用している場合、免許を付与し続けるという規定が盛り込まれてしまったので、現状はほとんど変わっておらず、企業参入も進んでいないのです」(同)
養殖の質低下も懸念されている。
「組合員は小さな区画を割り当てられるケースが多く、生産量を上げようとして過密養殖になりがち。環境収容量を超えた養殖を行うと、環境の劣化や栄養塩の不足のため、質の低下につながります。たとえば、養殖されている魚や貝類の生育が遅くなったり、海藻類では色が悪くなったりします。魚類養殖では大規模な投資と最先端の技術により生産を大きく伸ばすことができますが、人手や設備が不足し、かつ高齢化に苦しむ漁協にはできないことです。養殖業を伸ばすためには、継続的に投資と生産が可能な企業の力を積極的に活用すべきです」(同)
そして、消費者の意識も変えていくべきだという。
「市場に行ってみると、高級魚と謳っていてもサイズが小さい魚が並んでいることは珍しくありません。そうした高級魚はすり身にしてかまぼこにしたり、粉状にしてふりかけにしたりとお土産として店に並び、観光客が喜々として買っていきます。しかしこれは乱獲に加担しているのと同じなので、本当に買うべきか考え直す必要があるでしょう。我々が水産物の現状をよりよく知っておかないと、おいしい魚が食べられなくなる日もそう遠くはないかもしれません」(同)
「リーズナブルな回転寿司が食べられなくなるかもしれない」といった懸念は、問題の一端にすぎないようだ。
(取材・文=文月/A4studio、協力=阪口功/学習院大学法学部教授)