――青山は健闘しているものの、業界全体の見通しは暗いというのが現状でしょうか。
河合氏「この業界では『リテールイズディテール』、すなわち小売業の真髄は『小さなことにこだわる』ところにあるといわれていますが、非常に小さな蓋然の積み重ねや、マーケティングで十分な調査をすることで的中率が上がるわけです。しかし、古くからの慣習を変えたくない人たちもいます。
たとえば、一般的にポリエステルのスーツはご法度ですが、それは“おじさんたち”の常識であって、若い人たちはそのように考えません。過去の例でいえば、バーバリーとアクアスキュータムが挙げられます。バーバリーはアジアでスーパーブランドに成長しましたが、アクアスキュータムはレナウンと一緒に破綻していきました。それは、アクアスキュータムは本国イギリスの言う通りに展開したことが大きな要因です。一方のバーバリーは“女子高生のスカートにバーバリーチェックを取り入れたら格好いいだろう”と直感的に感じ取って実践し、それを安室奈美恵さんがはいたことでブレイクしました。
このようにファッションは、これまでにないような組み合わせを取り入れて進化していくものなのです」
――青山をはじめとしてスーツ業界では、漫画喫茶やとんかつ店など事業の多角化が行われていますが、今後も本業のスーツ事業が主たる柱であり続けるのでしょうか。
河合氏「本来、経営の多角化は隣接する事業に拡げていくものですが、スーツ各社の場合はそうではありません。さまざまな模索を続けているとは思いますが、かつてカネボウが紡績会社から化粧品会社に転向したようなドラスティックな変身は遂げないでしょう。
IT業界などスーツを着ないで出社する会社員も増えていることから、今後はスーツがなくなりはしないと思いますが、伸びていくことはないでしょう。しかし、スーツ製作会社が持っている技術、ノウハウを生かす方法はあると思います」
――では青山が好調と伝えられているなかも、決して楽観できる状況ではないということでしょうか。
河合氏「青山は“勝っている”のではなく、(落ち込んでいっている業界のなかで)“シェアを獲っている”のです。言い換えれば、時代の大きな流れに乗っているわけです。市場そのものが縮小しているのは間違いありません。
スーツ業界としては、最後の草1本に至るまで刈り取るようにスーツを作り続けるか、パジャマスーツのような“キワモノ”狙いでいくか、“どうにでもなれ”といった感じで運を天に任せるか、といった三者択一なのではないでしょうか」
スーツ業界は斜陽産業といわれて久しいが、各社は生き残りをかけて“脱スーツ”を模索し続けている。青山の業績回復は一時的なものなのか、それとも経営の大きな転換点となりうるのか、注目していきたい。
(文=Business Journal編集部、取材協力=河合拓/事業再生コンサルタント)