イオン・トップバリュ発泡酒、3カ月で5千万本売上の快挙…大胆な決断と緻密な戦略

イオントップバリュのHPより
イオントップバリュのHPより

 10月の酒税改正に向けて、ビール業界が大きく動き出している。各社が新商品などの新たな戦略を打ち出す中、イオントップバリュのプライベートブランド(PB)商品である発泡酒「バーリアルグラン」シリーズが発売3カ月で5000万本(3月1日~5月31日)を突破する大ヒットとなり、大きな注目を集めている。試飲レビューや専門家による戦略分析を通して、成功の秘密を探った。

 10月の酒税改正では、新ジャンル(第3のビール)の税率が上がって発泡酒と並び、ビール系飲料の区分は事実上、ビールと発泡酒だけになる。税率が下がるビールの新商品を打ち出しているメーカーは少なくないが、そんな中でイオンは3月に「350mL缶で税込88円前後」という新ジャンル最安値クラスで販売していた「バーリアル」を、発泡酒の「バーリアルグラン」に刷新するという大胆な戦略を打った。

 同シリーズはベースとなる「バーリアルグラン」に加え、「リッチテイスト」と「糖質50%オフ」の計3アイテムを展開。発泡酒になったことで価格は350ml缶で税込118円となり、30円ほど上昇した。売価が約35%も上がったとなればファン離れが起きそうだが、なんと発売3カ月でシリーズ売上5000万本を突破。この売上ペースは旧「バーリアル」の2倍の速さだという。

 消費者の信頼を勝ち取ったひとつの要因が「味」だ。東北産の希少ホップ「IBUKI」を含む複数のホップをブレンドしており、発泡酒になって新ジャンルにありがちな雑味が排されたことで「おいしくなった」と好評を得ているという。通常の「バーリアルグラン」はアルコール分5%だが、6%の「リッチテイスト」は飲みごたえがあるとして特に売上好調のようだ。

「バーリアルグラン」の成功要因について、業界事情に詳しい流通ジャーナリストの西川立一氏に見解を聴いた。

「成功のひとつの要因としては『安さ』があります。新ジャンルのころより値上がりしたとはいえ、発泡酒の中では他の大手メーカーと比べて安いので価格優位性がある。相次ぐ食品の値上げによって割安なPB商品が支持されるようになり、その流れの中で『バーリアルグラン』も注目されたといえます。もうひとつは、味と品質が支持されたことでしょう。イオントップバリュのPB商品というと、かつては安い代わりに製造委託先が二流、三流のメーカーだったのですが、近年は大手メーカーが増えています。『バーリアル』についても、製造委託先が韓国のメーカーからキリンビールの国内工場に変更され、それが『バーリアルグラン』でも継続されています。昨年、ヤリ手で知られる土谷美津子さんがイオントップバリュの新社長に就任し、新たな価値を消費者に提供する方針を示していましたが、その答えのひとつが『バーリアルグラン』の成功だといえるでしょう」(西川氏)

 発泡酒だけでなく、イオントップバリュはビールでも存在感を強めている。“ご褒美ビール”的なプレミアム系ビールの市場において、同社は「プレミアム生ビール」を7月にリニューアル発売。他社のスタンダードビールと同価格帯で販売したことで、こちらも旧製品を上回る売上ペースが期待されている。

「同社は『プレミアム生ビール』の開発について、プロジェクトチーム体制で進め、企画から委託先の選定まで戦略化して取り組んでいます。プレミアム系なのにスタンダードビールと同価格帯となれば相対的に値段が割安で、製造はサッポロビールなので品質も担保されていますから、今後さらに伸びていく可能性は大いにあるでしょう。かつては消費者の『NB(ナショナルブランド)信仰』が強かったのですが、物価上昇の影響もあってNB神話は完全に崩壊し、現在の消費者は実質本位になっています。そういった状況から、割安で品質も向上しているPB商品がシェアを拡大していく傾向は強まる。また、小売店では陳列スペースの奪い合いになっているので、大手メーカーもスペース確保のためにスーパーやコンビニのPBと積極的に協業しています。そのような流れもあり、PBの存在感は大きくなっていきそうです」(同)