「地域ブランド」という言葉を耳にしたことがあるだろうか。大きく2つの意味があり、ひとつは旅行先としてのブランド、もうひとつは特産品の産地としてのブランドである。
旅行先としての地域ブランドに注目すれば、古都といえば京都、大自然といえば北海道などを想起する人が多いだろう。このように無自覚にパッと思いつくということは、他の観光地に対して競争優位性があることになる。
また、産地としての地域ブランドに注目すると、長崎のカステラ、下関のフグ、広島のお好み焼き、香川のうどんなどは、多くの消費者が商品名を聞くと、産地が想起される強い地域ブランドの好例といえる。こうなれば、売り上げの向上はもちろんのこと、価格競争を回避できる場合も少なくはない。
しかしながら、地域ブランドに限らず、ブランドを構築することは極めて難しい。例えば、高級アパレルブランドであるシャネルの場合、コルセットなど男性の求める“女性らしさ”を体現したファッションが主流であった当時、創業者であるココ・シャネルが快適性・機能性を重視したファッションを提案することで女性を服から解放し、さらには自立を促す結果となった。こうしたことにより強いブランドが確立された――といった説明がしばしばなされる。
このような説明には一定の説得力があるものの、当時、似たようなデザインを試みたコンペティタは多く存在していたようであり、この要因のみをもって強いブランドが構築されたとするには無理があり、その他、多くの要因が影響しているはずである。
一方で、地域ブランドは地域の活性化にも大きく貢献するため、地元の企業はもちろんこと、国や地方公共団体など、多方面から注目されている。実際、行政は県や市レベルで地域ブランドを立ち上げ、地元企業を巻き込み、さまざまな助成を行っている。もちろん、こうした取り組みにより、広告などを通じて知名度が向上し、売り上げにつながっている場合もある。
とはいえ、行政による地域ブランドの支援には行政特有の限界が存在する。例えば、スーパーの広告のビラを見ると、おすすめ商品などが大きなスペースで取り上げられている。もし、おすすめ商品などが一切示されず、全商品が同じスペースで取り上げられた場合、それは非常に単調で、消費者は刺激されず、結果、売り上げも伸び悩むだろう。
もちろん、そんなスーパーのビラは存在しないが、行政の地域ブランドのパンフレットはまさにそうした状況になっており、地元で大人気の商品も、地元の人さえよく知らず、とりあえず販売はしているといったレベルの商品も同格に扱われている。これでは消費者に対して、なんのアピールにもならない。
こうした状況を問題視し、地方公共団体のなかには“プレミアム地域ブランド”に取り組もうとしているところもある。現状の地域ブランドにおいても、認定のための審査は存在するが、そのハードルは極めて低く、申請された商品はほぼ全てパスしてしまう。よって、一般の地域ブランドとは別に自らが自信をもって推奨できる商品を集めたプレミアムな地域ブランドを構築しようという試みである。
ところが、こうした取り組みは「行政が地元企業を公平に扱わない」など、ネガティブに捉えられるリスクもあり、現在は志を共にする仲間づくりや根回しなどに日々奔走しているようだ。ちなみに、極めてデリケートな問題となる“プレミアム地域ブランド”の選考基準に関しては、ふるさと納税の返礼品ランキングの活用などがあがっている。売り上げが公開されていない中小企業が多いことからも、極めて客観的で大変興味深い基準である。