東京・港区の武井雅昭区長が9月1日、「来年度からすべての区立中学校で海外への修学旅行を実施する」と発表し、物議を醸している。海外修学旅行の目的は「国際人育成に向けた取組の集大成」「区立中学校の魅力の向上」「海外の現地で対話する経験を味わい、言語の重要性に対して認識を深める」などとしている。
ちなみに2024年度はシンガポール3泊5日で、対象となるのは区立中学校3年生の全生徒約760人。港区議のさいき陽平氏はX(旧Twitter)に、「事業規模は約5.2億円。対象760名なので1人当たり約68万円を区が負担」「68万円を高校受験等の教育資金に充てたい・区立だけ不公平 との声も 皆さんはどう思われますか?」と投稿。
そこでBusiness Journal編集部は、さいき氏に、投稿の意図および港区の方針に対する見解を聞いた。
――区立中学校が海外で修学旅行を実施することについて大きな話題になっています。
さいき氏「区立の中学生たちが海外で経験を積む、グローバルな教育を受けられる、教育の質を向上させていく、ということには賛成です。しかし、3泊5日の修学旅行で一人当たり50万円ほどかけることについて、保護者や区民の皆さんが望むものに沿っているのか、もう少し丁寧に練り上げてもよかったのではないかと思います。子ども供たちの教育にお金を使うこと自体は良いことだと思うので、今回の件については賛成する部分と反対する部分とが入り混じっています」
――区の負担額が単純計算で一人当たり68万円ほど、個人負担が7~8万円と言われていますが、なぜそれほどの費用がかかるのでしょうか。
さいき氏「役所の担当者に確認したところ、これまでの修学旅行でも自己負担額が7~8万円で、今回発表されている事業規模にはその額も含んでいるようです。さらに、教員と教育委員会から100名随行する予定で、現地ガイド等への費用も含めており、一人当たりに換算すると、補助額は50万円ほどと見込んでいるとのことです」
――一般的にシンガポールへ3泊5日で旅行した場合、30~40万円程度に収まるはずとの指摘もあります。50万円の補助+自己負担7~8万円でも高い印象で、中抜きされる懸念も拭えないところです。
さいき氏「行政の予算を確保するために、少し大きめの見積もりを出している部分があります。まだ事業者は決まっておらず、これからプロポーザル形式で選定していきます。したがって、今後、事業者からさまざまな提案がなされていくなかで、予算も変わっていくことになります。その点については、我々(区議会)もチェックしていきます」
――海外への修学旅行を導入する目的は、発表されている「中学生たちに生の英会話の利用の場を提供する」といったこと以外に、私立中学への流出を抑えたいといった狙いもあるのでしょうか。
さいき氏「区立と私立を比べた際に、私立のほうが魅力あると思われている結果として、私立を受験する家庭が多くなっている部分はあると思います。そのため、区立でも充実した学習環境が得られると思ってもらえるように、魅力を高めていくことは重要な課題であるととらえています」
――実際に、修学旅行の件以外でも、学習環境を充実させるための施策も打っているのでしょうか。
さいき氏「学習にiPadを導入するなど、学習環境向上のための取り組みはさまざまに行っています。ただ、修学旅行のための予算として5億円超もかけるのではなく、ほかの部分にも割り振って、区立中学の魅力を高める方法も考えられたのではないかと思う部分もあります。例えば、港区には大使館が多数立地していますし、インターナショナルスクールも多くあります。こうした立地を活かした国際教育が生かしきれていない現状にあります。また私立に通う学生も多いことから、こうした学生へのフォローのあり方も、さらに検討していく必要があると思います」