JR東日本が発行する交通系ICカード「Suica」の一時販売中止が長期化している。2024年度以降からはQRコードで通過できる新型自動改札機が順次導入されることもあり、一部では「Suicaが廃止されるのでは」といった憶測も広がっている。このままSuicaは廃止の方向へ進むこともあるのか、JR東日本のQRコード改札導入の狙いはどこにあるのか、識者に見解を聴いた。
交通系ICカードをめぐっては、6月8日にJR東日本が発行する「Suica」と私鉄などが共同発行する「PASMO」の「無記名」カードの販売が中止され、8月2日には「記名式」カードについても発売が中止に。5月にSuicaのサービスが開始されたばかりの青森・盛岡・秋田エリアでは販売継続となっているが、そのほかのJR東日本のエリアでは、定期券や短期滞在者向けの「Welcome Suica」などを除き、Suicaカードが買えないという異例の事態が続いている。
複数の報道によると、世界的な半導体不足でカード製造に必要なICチップの入手が困難になったことが販売中止の大きな原因とされる。さらに、外国人観光客の訪日が急増したことでカード需要が想定以上に激増し、販売継続に必要な在庫が確保できなくなったことも影響したとみられている。
JR東日本は2024年春ごろの販売再開を目指すとしているが、半導体の流通状況などに左右されるため先行きは不透明だ。当面の代替方法として、JR東日本はスマートフォン向けの「モバイルSuica」などの利用を呼びかけている。
そんな中、JR東日本は2024年度からQRコード改札を順次本格導入する。切符予約サービス「えきねっと」で乗車券を予約する際に「QR乗車」を選択できるようになり、チケット購入後、専用のモバイルアプリ上に表示されたQRコードを対応改札に読み込ませることで通過でき、在来線だけでなく新幹線も乗車できるという。そうした流れから、一部では「JR東日本は生産が不安定なSuicaカードを廃止し、QRコードやモバイルSuicaに置き換えていくのではないか」との憶測が広がっている。
実際のところ、JR東日本がSuicaカードの発行をやめることはあり得るのだろうか。鉄道ジャーナリストで都市交通史研究家の枝久保達也氏に見解を聴いた。
「現在の発売制限に絡んでということであれば、やめる可能性はありません。現在の鉄道利用はSuicaの使用を前提としており、将来的にこれに代わるシステムが構築され、サービスを終了するとしても、過渡期にはSuicaが使われ続けるので、現時点でやめるということは考えられません」(枝久保氏)
JR東日本のQRコード改札導入の狙いは、コストダウンのための「磁気切符の段階的廃止」だと指摘されている。磁気切符は磁気情報を記録できる特殊な塗料を使った用紙が必要でコストが高く、磁気切符に対応した自動改札機は軽く1000万円を超えるほど高額で、ベルトやローラーなどの精密部品が組み込まれていることから故障しやすく維持費用もかさむ。これがIC専用などのチケットレス自動改札機となると大きく価格が下がるため、JR東日本としては磁気切符をいずれなくしたいという思惑があるようだ。
だが、誰もが日常的に鉄道を利用しているとは限らず、乗客全員にSuicaの利用を求めるのは難しい。その代わりとして、1回の乗車でも使いやすいQRコード改札を導入しようとしているわけだ。つまり、SuicaカードとQRコード改札はチケットレス化を進める中で共存するのが前提で、どちらかがどちらかに飲み込まれるという認識は誤解のようだ。