その一方、東急電鉄が田園都市線と世田谷線で、タッチ決済ができるクレジットカードをかざすと改札を通過できる新たなシステムを試験導入し、東京メトロも実証実験を計画するなど拡大の動きを見せている。今後、JR東日本などの鉄道における決済システムはどのようになっていくのか、枝久保氏はこのように分析する。
「現在、JR東日本はSuicaの処理を駅からセンターサーバーに順次転換しています。これにより従来、自動改札で運賃を判定し、駅のサーバーを経由してSuicaの利用履歴を管理していたのを、センターサーバーで一括して管理可能になります。そうなると、システムにとってQRコード、ICカード、クレジットカードは、利用者を識別する目印として等しい位置付けになります。目印をもとに利用者が、どこからどこまで乗ったかを把握し、運賃計算はセンターサーバー側で行い、必要な運賃を算出して送信します。QRコード乗車券であれば事前に購入した金額と合致しているか、Suicaであれば残高からいくら引き去るか、クレジットカードであればいくらの請求を送るか、です。これら券種は想定される利用者によって使い分けられることになります。ICカードを持たない1回限りの利用者はQRコードを、日常的に鉄道を利用する人はSuica(ただし現在のものとは形態が変わるかもしれません)を、使用にハードルがある外国人観光客は所持率の高いクレジットカードを利用し、どれかに集約されるのではなく、どれもが等しい位置付けのサービスになるというわけです」(同)
チケットレス化の拡大という前提のうえで、利用者が各決済サービスを使い分けしていく時代になっていきそうだ。Suicaカード、モバイルSuica、そしてQRコードの導入でチケットレス化を進め、さらにデータ処理をセンターサーバーに順次転換していくJR東日本はどのような方向性を目指しているのだろうか。
「データ処理をセンターサーバーに任せることで自動改札側や駅に大きな仕掛けが必要なくなるので、駅への導入コスト削減はもちろん、駅以外、たとえば商業施設、観光施設への設置も容易です。これを組み合わせて利用形態に応じた運賃制度、割引の柔軟な適用が可能になります。JR東日本は鉄道を中心に駅や街などさまざまな場所が『新たなシステムのSuica』を介してつながる経済圏の構築を目指すことになるでしょう」(同)
(文=佐藤勇馬、協力=枝久保達也/鉄道ジャーナリスト)