一方のAFURI社に見解を問い合わせたところ、
「現在、弊社では各メディア様からの取材はご容赦いただいている状況です。会社としての公式な見解は、HPにプレスリリースとして掲載しておりますので、そちらをご確認いただければと思います」
とのことであった。
ちなみにAFURI社が昨年8月に吉川醸造に送付した文書内には、
<貴社における前記一連の行為は、当社の周知・著名な前記登録商標が獲得した業務上の信用にフリーライドするものであって、極めて悪質なものといわざるを得ません>
<不誠実な対応を取り続けられる場合には、当方としましては、法律上認められているあらゆる法的措置を取らざるを得ないことを申し添えておきます>
といった文面もみられる。中堅企業で法務を担当する役員はいう。
「ずっと昔から『あふり』という名前の日本酒をつくって販売してきた吉川醸造からすれば、ある日突然、見ず知らずのラーメン店から『AFURI』という表記を使うなと言われ、反発するのは当然だろう。ただ、AFURI社が商標を登録し、さらに商標登録後に吉川醸造が商品に『AFURI』という英語表記を使っているということなので、単純に法律的な話としてはAFURI社のほうに分があるということになってしまうのではないか」
今回のAFURI社の行為をめぐってさまざまな声があがるなか、同社はプレスリリースで
「当社は、本業であるラーメン事業のみならず、他にもいくつかの事業を計画しており、その過程で必要に応じて商標登録を取得し維持を図っております」
「新事業への進出に際して、その分野であらかじめ商標登録を取得する行為は、必要なことです」
と説明しており、吉川醸造はプレスリリースで「AFURI社では現在『阿夫利』『AFURI』で構成される商標を、『ラーメン』以外に150種類以上の物品・役務について取得しております」としているが、ビジネス・法務の観点からみれば、AFURI社の行為は理にかなったものなのだろうか。山岸純法律事務所代表の山岸純弁護士はいう。
「この問題、吉川醸造側が『AFURIから訴えられた』と触れ回ったのが先ですよね? まず、この点がやや解せません。そもそも、新商品やサービスを始めるにあたって、商品などの名称やロゴについて『他人の足』を踏むことがないように、先に登録された商標権が存在するかどうかを確認することはビジネスの基本です。まして、いわゆる街の酒蔵レベルではなく、それなりの大企業(の子会社)であるわけですから、今回のトラブルは、吉川醸造側によるビジネスにあたっての凡ミスと考えられます。
訴訟が係属するまでの双方の弁護士による協議の中身はわかりませんが、吉川醸造側は先使用権(ウチはソチラの商標の登録前から使っていたという抗弁)の主張や、『阿夫利』などは地名由来であることや一般名詞だからそもそも商標登録できないはずといった主張をしていたのかもしれません。これらの主張が正しいかどうかは、今後の訴訟の中で明らかになっていくものと思われます。
ところで、AFURI社は広い範囲で商標登録をしているとのことですが、実際に使用しているのであれば、自らの権利等に勤勉に行動している結果であって、何か責められるものではありません。また、商標法は『先に使っていた』という会社があれば保護されることになっておりますし、使っていない商標権は取消される場合もあるなど、とてもバランス良くできています。したがって、AFURI社が、やり過ぎ、と責められるようなことはないわけです。
世の中は、どちらかのサイドに立てば『かわいそう』『相手が悪い』という感情が沸き起こり、これが人ごとに異なるからややこしくなります。ややこしくならないように予めバランスをとっているのが『法律』です」
(文=Business Journal編集部、協力=山岸純弁護士/山岸純法律事務所代表)