――どうして2人がブチ切れたのですか?
yuuu 装飾のクオリティーが低かったのです。「こんなショボい装飾で俺の送別会をやるのか!」と。その時は良かれと思って、自腹も切って装飾したのに、なぜ怒られなければならないのか? と思いましたが、よくよく考えると、自分がどうしたかではなく相手にどう思われるかが全てなのです。そこに価値を提供できなれば、自分の努力は何の意味もありません。
――最初から何もしなかったほうがよかったですね。
yuuu あの店なら、わざわざグッズを買って装飾する必要はありませんでした。装飾をするのならアウトプットを上司に提示して、コンセンサスを取っておくべきでした。仮に上手くいかなくても、言い方は悪いですが、上司の責任になるわけです。上司と共犯関係になることは結構大事です。
――会食にはリスクもありますね。
yuuu あります。相手に警戒心を持たれたり、貸し借りの関係を感じさせたりしまうことだけでなく、地雷を踏んでしまうリスクもあります。
――地雷を踏むとはどんなことですか?
yuuu 酒を飲むと気が緩んでしまいがちで、会食相手の競合先に関するネガティブ情報を口にしまうことや、こちらの社内情報を迂闊に話してしまうことです。酒の勢いとはいえ、口が軽いと信用をなくします。それから相手が愚痴をこぼしたり、先方の社内批判をしたりした場合、決して同調しないこと。同調すると、こちらがそういう発言をしたと吹聴されかねません。
――会食の場で取引に関わるお願いごとをするのも、場違いな行為ではないでしょうか。
yuuu 店を出てからも含めて、会食の場でビジネスの話をしてはいけません。とくにお願いごとをしたり、相手の意思決定権者を聞き出したりすることはタブーです。後日のビジネスを円滑に進めるための関係づくりが会食です。仮に相手が「これこれしかじかのことを求めているのだろう?」とこちらの意図を突いてきたら、「その件について日を改めて相談させてください」と伝えておけばよいのです。
――会食は戦略的な行為ですね。
yuuu そうです。会食は戦略です。一部始終気を抜けないのがビジネスの会食です。さらに戦略である以上、会食にともなうコストパフォーマンスも考えなければなりません。設定した時と設定しない時では何が違うのか、利益インパクトを上回る成果を残せるかを明確にして設定すべきで、明確にできない時は設定すべきではありません。
自分から会食を企画したい場合は、上司に対して「この案件がこんな現状なので、円滑に進めるために会食を設定したいと思う。案件が上手くいくかどうかは確証を持てないが、上手くいけば、これだけの売り上げが上がり、これだけの利益を得られるので、この予算で会食を開きたい」と申し出るのです。
――まるでフィージビリティスタディですね?
yuuu フィージビリティスタディと同じです。ROIの観点から、いくら投資して、いくらの利益を上げるというシナリオを明確にすることが、会食を設定する前提です。
――yuuuさんが作成されたマニュアルの内容はかなり高度ですが、もっと簡単に会食のポイントを把握する方法はないでしょうか。
yuuu 前提として、あのマニュアルを全て実行する必要はありません。私も実行できないことがあります。ポイントは自分なりの判断基準をもって、上司とコンセンサスを取ることです。コンセンサスを取っておけば上手くいく確率が上がりますし、上司も適切なフィードバックができるようになります。
――会食に誘われる側の心得も教えてください。例えば貸し借りの関係を作らないために「会社の規定で費用は折半させてもらう」と前もって伝えておく方法もあります。
yuuu 会社の規定を理由に示すことはアリだと思います。実際、折半を原則にして、どちらかの費用負担で会食に誘うことも、誘いに応じることも、いずれも禁止している会社はあります。また、相手側の意図を察知したうえで、会食を経ていろいろ要求されるのは困る場合は断ったり、あいまいにリスケジュールをしたりする方法があると思います。
会食への対応では貸し借りの関係をチャラにすることも大事で、何となく手土産を持ってくるなと感じたら、こちらもお返しの手土産を持参するとか。あるいは一次会の費用を先方が負担したら、二次会の費用はこちらで負担するとか、一次会も二次会も先方が負担したら、次回の会食はこちらで設定して費用も負担するとか。対等で健全な関係を築いておくことが、誘われた側のリテラシーです。
――今日はたいへん詳細なお話をありがとうございました。
(構成=小野貴史/経済ジャーナリスト)