5月、指定暴力団住吉会系組員の男性を含む男女3人が、密売目的で東京都内の集合住宅の一室で違法薬物を所持していた疑いで逮捕された。近隣住民からの「カップルがケンカしている」という110番通報を受け警察官が駆け付けたところ、事実が判明したという経緯だったが、フジテレビが通報者が特定できるかたちで報道しているとして議論を呼んでいる。容疑者が反社会的勢力の構成員であるため、通報者に報復などの危害がおよぶ可能性もあり、報道のあり方が問われている。
事件が起きたのは2月のこと。住吉会系組員の高野陸容疑者の知人である真弓心月容疑者と、真弓容疑者の交際相手である谷口愛美容疑者がいた集合住宅の一室から大声で言い争う声がするという110番通報が、近隣住民から寄せられた(発生当時、高野容疑者は不在)。これを受け警察官が現場を訪れたところ、薬物などが入った段ボールが見つけ、2人に対する尿鑑定で陽性反応が出たため逮捕。2人は「高野容疑者から預かっていた」と供述し、警視庁は高野容疑者を逮捕し、高野容疑者が所属する住吉会系の組事務所への家宅捜索を行った。
この事件について、フジテレビ系FNN28局が配信しているニュースサイト「FNNプライムオンライン」は6月14日付記事で、110番通報を行った人物が特定される恐れがあるかたちで報道。ちなみに他メディアは以下のように通報者が特定されないよう配慮して報じている。
「口論から通報され、事件が発覚しました」(テレ朝news)
「2人が口論になり通報された際に、隠していた段ボールが見つかったということです」(メ~テレ<名古屋テレビ>サイト)
このフジの報道をめぐってSNS上では以下のような指摘が相次いでいる。
<報道で明らかにされると、関係者からの報復が生じ得る。警察はその事をどう弁明するのか?情報開示前のチェックと報道機関は自主的にメディアへの公開に関しては注意しなければならない>(原文ママ、以下同)
<通報者は伏せておかないと逆恨みや見せしめなどで被害に遭う可能性があります。ましてや暴力団関係者となると警察も神経質になくらい情報を伏せておかないと>
<ヤクザ関係なら報復もある可能性があるのに、通報者が特定出来るような情報を言ってはいけないし、言ってもない人が被害にあうかもしれないのに、そうなったらどう責任取るんだ?>
<報道の自由って人を脅かすことなのかな?もっと警察がこう言ったからありのまま報道するのではなく、濁して報道してあげないと>
<これ「近隣からの通報」としておかないと通報者が行方不明になってしまう>
全国紙記者はいう。
「フジの記事を読むと、容疑者本人や所属する組は通報者を簡単に特定できてしまうので、明らかに問題といえる。一般的にメディアは報道の際に、情報提供者や証言者、事案の関係者については不利益が及ばないように秘匿に細心の注意を払うが、『警察への通報者』については『メディアにとっての情報提供者』でもなく、また『事件の関係者』とまでいえるかは微妙なところで、プライバシー保護の意識がすっぽり抜けてしまいがちなのは注意が必要かもしれない」
今回のフジの報道は適切といえるのか。元日本テレビ『NNNドキュメント』ディレクターで現在は上智大学でテレビ・ジャーナリズムについて教鞭をとる水島宏明氏に解説してもらう。
6月12日(月)の昼のニュース番組「FNN Live News days」(フジテレビ系)で放送された「『カップルがけんか』通報で覚醒剤発覚 密売目的で所持か…男女3人逮捕」。容疑者が住むマンションの住人から「隣のカップルがケンカしている」と通報があったことで事件が発覚したという。逮捕された3人のうち1人が指定暴力団住吉会系の組員だった。警察に通報したのが容疑者の隣に住む住人であることが明らかになってしまい、通報者の身元を特定させてしまう内容だ。あとになって通報者が容疑者らから報復を受けるリスクを残すような伝え方だ。