アパレル業界の不振が続いている。マーケットの実態調査と市場予測を手がける矢野経済研究所によれば、2021年の国内アパレル総小売市場規模は7兆6105億円。コロナ禍前である19年の9兆1732億円と比べると約1.5兆円も下落しているのだ。同研究所によると、EC販売、利用の拡大はあったが、コロナ禍の影響は依然大きく、市場流通量はコロナ禍以前の8割に留まっているとのこと。今後の展望としても、広告や販売促進費を高めていく戦略では急激な伸びは期待できず、長期的に見ても人口減少により継続的な市場成長は期待できないと予測している。
このように苦戦を強いられているアパレル業界だが、「ユニクロ」「GU」を擁するファーストリテイリング(以下、ファストリ)と「しまむら」を展開する「しまむら」は絶好調。ファストリの2023年8月期第2四半期(22年9月~23年2月)連結決算では、売上収益1兆4673億5000万円、営業利益2202億6300万円となっており、それぞれ前年同期比20.4%増、16.4%増を記録。一方、「しまむら」の23年2月期の連結売上高は6161億2500万円、営業利益は533億200万円と過去最高の業績を叩き出す結果となった。
グローバル展開を見据えるファストリと、国内の消費者をターゲットにする「しまむら」とでは、戦略も経営方針も異なるだろうが、なぜこの2社は不振が続くアパレル業界のなかで突出した結果を残せているのだろうか。そこで今回は流通ジャーナリストの西川立一氏に、両社の業績好調の要因について聞いた。
まず注目しておきたいのはファストリとしまむらの利益率。冒頭で紹介した決算資料を見てみると、ファストリの粗利率は52%、営業利益率は13%ほどであり(いずれも2022年8月期通期)、「しまむら」は34%、8%となっている。西川氏はアパレル業界の平均的な利益率を参照しながら次のように語る。
「アパレル業界は、他の業界に比べ粗利率が高く、粗利率が50%近くになるので、商品そのものの収益性は高いです。しかし、販管費や値下げなどを考えると最終的に営業利益率は5%ほどに落ち着くので、最終的な利益はそれほど残らない経営をしているメーカーが多いのです。そう考えると、ファストリは高い利益率を叩き出していますし、『しまむら』も若干粗利率が低くなっているものの8%と高水準。どちらも高利益を出せるビジネスモデルを構築できていることがわかります」(西川氏)
ファストリのビジネスモデル、利益のからくりはどうなっているのか。
「ファストリは一貫したSPA(製造小売業)とグローバル展開を進めることにより、高い利益率を出しています。企画、製造、物流、販売まで行うサプライチェーンであるSPAは、中間マージンが発生せず、効率的に高い収益を生むことが可能。とりわけ物流に関しては、海外に製造工場を展開しているものの、ファストリ独自の物流網で日本をはじめ全世界に輸送することができ、コストカットに成功しています。商品を仕分ける倉庫も優秀でして、特に有明にある自動倉庫は人件費削減、生産性向上につながるということで一時期話題になりました。
また、海外の売上が伸びてきており、国内の売上と逆転しています。ファストリは海外進出に積極的でして、国内店舗数809店に対し、海外店舗数は1585店(23年4月20日現在)とその差は歴然。『ユニクロ』をはじめとして、ファストリの商品は機能性インナーや肌着、下着などといった生活に欠かせないものや、無地のTシャツ、ラフなパンツ、ニットとベーシックで無難なアイテムが多く、使い勝手がいい。いわばアパレル業界の宿命である流行にとらわれないラインナップにしていることが功を奏し、安定した収益を確保できているのでしょう」(同)