「しまむら」利益533億円、ファストリは利益率13%…圧倒的な2人勝ちの秘密

 また販売力の高さ、昇給制度の充実さによるファストリの生産性の高さにも注目すべきだという。

「ファストリでは年功序列にこだわらず、優秀な人であればどんどんスキルアップできるキャリアプランが整備されています。能力主義に基づき、人事評価も正当に評価されやすく、若くして店長まで昇格することができるので、社員のモチベーションを高めやすいんです。今年1月にはファストリの新入社員の初任給を30万円まで上げるという報道があったように、キャリアアップを図ったり、自己を研鑽したりしたい人から見れば魅力的な職場に映ることでしょう。また新卒のみならず、中途採用にも積極的なので優秀な人材を集めやすい。こうしてマンパワーがほかの企業に比べ大きいことも生産性の高さにつながっているように思います」(同)

「しまむら」が利益を高くできている理由は徹底した在庫管理にあり

 一方の「しまむら」だが、こちらはグローバル市場というよりも、国内市場を主軸に置くアパレル企業だ。粗利率が低めだが、なぜ高い利益率を出せているのか。

「『しまむら』では、ファストリのようなSPAモデルではなく、製造業者から商品を仕入れるタイプのビジネスモデルとなっています。そしてブランドイメージとして、ファッション性の高い衣服を低価格で販売するというスタンスなので、粗利率が低くなるのは当然です。しかも、アパレル業界はただでさえ流行に左右されやすい業界なので、在庫も抱えがち。ですが、しまむらは在庫コントローラーにより精度の高い需要予測が行え、店舗が抱えるべき在庫数を適切に管理できているので、値引き商品をほぼ発生させず在庫を売り切ることができています。

 また値引きするとしても、タイミングや割引率のコントロールも巧みです。値引きする際に社内の人間が各店舗のデータを比較・参照し、商品の売れ行きがどうなっているかを判断してから値引きするようにしています。値引きする額もまだ各店舗で売れ行きがよかったら1割、早く在庫処分したい場合は半額といった具合に、ほかの企業よりも厳密に設定している節がありますね」(同)

 徹底的な売れ行き予測、在庫管理により地道に利益を追求する姿勢こそが「しまむら」の強みとなっているようだ。

「また客層を広げる戦略も功を奏したといえるでしょうね。従来、しまむらは主婦層をメインターゲットとするアパレルブランドでした。しかし、2010年前後から『しまらー』と呼ばれる存在に代表されるように、『しまむら』の衣服を身に着けることがオシャレになるというイメージづくりに成功し始め、今では若者も『しまむら』に訪れることが珍しくなくなっています。そこからメンズ、キッズ層にも行き届くブランディング戦略を手がけており、品ぞろえも強化するようになったんです。最初こそ苦戦したものの、徐々にそのイメージづくりが浸透していった印象があり、今の成功につながっているのではないかと思います」(同)

小売業界の他ジャンル企業がこの2社から学ぶべきこととは?

 高い利益率と確固たるブランドイメージを確立したファストリとしまむら。現在はアパレル業界のみならず、小売業界全般の不況が叫ばれる時代だが、この2社から学ぶことができるポイントはあるのだろうか。

「2社は違ったビジネスモデルとなっていますが、両社ともそのモデルをチェーンオペレーションとして営業できている点に注目すべきでしょう。経営を取り巻く環境の変化はあれど、それに対応できる強固な利益構造になっていることは無視できません。なぜそれができているかというと、どちらもカジュアルファッションがブランドアピールになっており、日々の暮らしにとって必要なアイテムと化しているからです。安定した安さと品質が担保されていれば、、『ユニクロか、しまむらに行っておけば大丈夫』という来店動機にもなるでしょう。

 そのうえでこの2社は、他のアパレル企業とは差別化したブランドイメージを確立できています。一昔前ですと『ユニクロなんてダサい』『しまむらはお母さんが着るもの』なんて見方も珍しくはありませんでしたが、今ではイメージ改革で一定の成功を収め、固定客を獲得し続けています。したがって、両社から小売業界の他ジャンル企業が学ぶべきことがあるとすれば、『利益を生み出せる独自のビジネスモデル』、『』『他社と差別化できるブランドイメージづくり』『このお店に行けば大丈夫という感覚』を育てていくこと。他ジャンルの企業もこうした姿勢や方針を見習うべきではないでしょうか」(同)

(取材・文=文月/A4studio、協力=西川立一/流通ジャーナリスト)