5月16日、京セラは2023年3月期の決算説明会で中期経営計画を公表した。今回公表の全54ページ(表紙含む)のうち、16~46ページ(資料下部のページ番号)が中期経営計画の説明にあてられた。計画の中で京セラは、自己資本利益率(ROE、当期純利益÷自己資本)の持続的向上と株価純資産倍率(PBR、株価÷1株当たり純資産)の改善を目指す、と強調した。実現に向け京セラは、競争優位性の源泉であるセラミックなど、微細なモノづくりの力に磨きをかけ、収益性の向上に取り組む。設備投資の資金を獲得するために、構造改革なども強化される。
今後、注目される一つは、経営陣の意思決定スピード向上だ。現在、スマホやパソコン向けを中心に世界的に半導体の市況は悪化している。一方、中期的にAI=人工知能の利用などは急増し、最新型の半導体の需要は高まる。成長期待の高い分野にいち早く進出し、生産体制を確立できるか否か、戦略的な意思決定の重要性は増す。リスクを抑え、高い収益を実現するために、事業ポートフォリオの入れ替え、先端分野での設備投資実行など、意思決定スピードの引き上げは欠かせない。半導体パッケージなど成長期待の高い分野で京セラが収益分野をどう拡大するか、注目される。
京セラが中期経営計画を初めて公表した狙いは、高成長の実現に向け、自ら変わろうとする意志を社会に明確に示すことだろう。背景の一つに、事業環境の加速度的な変化に対応して自社の業績拡大のスピードが高まったとは言いづらい、という経営陣の問題意識の高まりがある。2001年3月期、京セラの売上高は約1兆円だった。2023年3月期の売上高は約2兆円だった。22年で売り上げ規模は倍増した。一方、世界の先端分野の需要増加スピードは、より急速だった。世界半導体市場統計(WSTS)によると、2000年から2022年の間(暦年)、世界の半導体市場の規模は約3倍になった。
近年の決算説明会における質疑応答では、自社の収益の伸びが市場拡大ペースを下回っていることに関する経営陣の危機感が示された。2022年3月期の決算説明会では、半導体関連の事業を念頭に、「設備投資の対象、タイミングは従来から変化したか」との質問が投げかけられた。経営陣は、需要と供給の観点から回答した。まず、半導体の需要変化のスピードは加速している。そのため、「シリコンサイクル(3~4年周期で半導体市況が拡大と縮小を繰り返すこと)」など従来の発想に基づき、変化を確認してから投資に着手するのでは間に合わないとの認識を示した。
供給面で、工場建屋の建設にかかる時間が長くなっていることが示された。10年前、工場の建設にかかる時間は1年程度だった。現在、2年程度に伸びた。要因の一つに、中国、台湾、韓国など海外企業との製造装置の争奪競争の激化があるだろう。コロナ禍などによる供給網混乱の影響もある。また、バブル崩壊後の日本経済の長期停滞の影響も大きい。資産価格の下落、人口減少などによって需要は減少し、経済は縮小均衡に陥った。企業経営では、高い成長より雇用の維持などが優先されやすくなった。そうした発想から脱して収益獲得のスピードを高めることは、中期経営計画が策定された狙いの一つといえる。
中期経営計画は、大きく3つの取り組みから構成される。まず、半導体関連分野への選択と集中だ。京セラによると、2022年から2030年までの間に世界の半導体市場規模は50兆円から100兆円に倍増する可能性がある。その分野で、模倣困難な製品を供給し収益領域を拡大する。それは、中期経営計画で示された成長戦略の骨子といえる。