今年4月から、期限内(受信機設置の翌々月の末日)に受信契約をしなかったり、不正に受信料を支払わない人に対し、本来の受信料の2倍の割増金を課す制度を開始するなど、受信料徴収の強化に邁進するNHKは、今後どうあるべきか。当サイトは3月12日付記事『NHK、日本人の半分が見ていなかった…全世帯の8割から受信料徴収、世界的に特異』でこの問題を検証していたが、今回、改めて再掲載する。
――以下、再掲載――
NHKが昨年6月に発表した受信料の「都道府県別推計世帯支払率(2021年度末)」によれば、全国値は78.9%だった。約8割の家庭で受信料を払っていることになる。「NHKを見ないので受信料を払いたくない」――そう言って支払いを拒む人は、若者を中心に昔から結構いた。その理屈に対して、「NHKをまったく見ないなんてことあるのか」と疑問を持つ人も高齢者を中心に多くいた。
では、NHKは本当に見られているのだろうか。NHK放送文化研究所の「テレビ・ラジオ視聴の現況 2019年11月全国個人視聴率調査から」によれば、NHK総合チャンネルを1週間に5分以上見ている日本人は54.7%という結果だった。1日ではなく1週間である。衝撃的な数字だ。この数字で果たして「公共放送」と呼べるのか。そして受信料に正当性はあるのか。『NHK受信料の研究』(新潮新書)の著者で、早稲田大学社会科学総合学術院の有馬哲夫教授に話を聞いた。
――この調査結果をどう見ていますか。
週に5分というのは、驚く人も多いと思うが、NHKに限らずテレビの視聴時間は両極化している。見る人はかなり長く見ている。これは平均値なので、残りの半数は結構長時間見ているだろう。ただ、自分の感覚で「長く見ている」と思っていても、実際にはそれほど見ていない。意識的に見ているというよりも、テレビがついている環境で「流している」という感じだ。
しかも、それはテレビがある場合の話で、学生に話を聞くと、そもそもテレビを持っていない若者も多い。NHKや受信料制度の好き嫌い以上に、テレビはいらないと考えている。圧倒的にスマホを使っている時間が長い。なんでもかんでもスマホ。パソコンを持っていなくてもスマホで済むというのが普通だ。では、スマホでNHKやテレビを見るかといえば、まず見ない。最初からテレビを持たない、テレビ見る習慣がないというほかに、見る習慣をなくしたという人もいる。かつてはまあまあ見ていたが、テレビが面白くないから見なくなったというパターンだ。それから、大事なのは、我々の自由になる時間は減っているということ。
――自由になる時間とは?
仕事以外の余暇時間が減っているということだ。仕事から帰ってきても、まるっきり自由に使える時間が減っている。そして、やたらとメディアの数が増えている。ネットと一口に言っても、新聞・テレビ・雑誌などのネット版のほかに動画配信がたくさんある。個々人の時間は有限なので、1つのメディアに接する時間は当然短くなる。オールドメディア中のオールドメディア、NHK総合の視聴時間がさまざまなメディアに食われて減っていくのは必然だ。私はTwitterでBBCなど海外メディアを見ているが、その情報が一番早い。1~2日してネットニュースや地上波で流れる。速報性でテレビはネットに勝てない。
――これだけ多くの国民がNHKを見なくなっているなかで、受信料に正当性はありますか。
まず、放送法の受信料規定は、受信設備を持っている人にNHKとの受信契約を義務付けているが、これは憲法に違反している。契約の自由を侵害しているからだ。この概念はBBCにはない。イギリスの場合は、BBCを含め、他の民放も含めて放送全体を見る・聞くための許可料だ。昔、ラジオを設置するには、政府に許可申請しなければならなかった。発信・送信もできるので、スパイ防止のために許可制だった。これは日本も同じだった。