この声明について、外食業界関係者はいう。
「通常、企業がネット上で議論を呼ぶような騒動を起こすと、『お騒がせしましたことを、お詫び申し上げます』などと、とりあえず謝罪の姿勢を見せるケースが多いが、今回の声明で運営元は謝罪の言葉を使っておらず、それが取り組みに込められた信念の強さをうかがわせ、非常に好感が持てる。炎上騒動だとして面白おかしく取り上げていた向きに恥ずかしい思いを抱かせるほど真摯な姿勢がうかがえるコメントで、反論の余地をまったく与えない、これ以上ない完璧な対応といえる」
では、果たして無料提供の開始によって、店舗で混雑や混乱が起きたり、クレームが寄せられたりという変化はみられたのか。運営元のスープストックトーキョーに問い合わせたところ、回答は得られなかった。また、都内の複数の店舗で聞いたところ、
「離乳食(提供開始)の影響は特にありません」
「いつもお昼以後は混雑しておりますので、変わりません」
「混雑をいただいております。Twitterのおかげもありまして」
とのことであった。ちなみに3つ目のコメントの店舗は平日夜8時以降にもかかわらずレジ前に長蛇の列ができており、乳児連れの客はいなかったものの客席も7~8割が埋まっていたので、離乳食の件とは関係なく常に混雑している可能性も考えられる。
「結局、一部の人が『子連れ客が増えて大混雑してしまう』と騒いでいただけで、蓋を開けてみれば杞憂に終わったということ。スープストックは小規模な狭めの店舗が多く、ぱっと思い付きのイメージとして『狭い店内にベビーカーの客が殺到して子どもが泣き叫ぶ』という印象を抱いてしまった人が一定数いたのかもしれない。
だが、スープストックの店舗の約半数は東京都内で、繁華街やビジネス街、大型商業施設、駅構内の店舗も多く、そこにベビーカーを押すグループ客が無料の離乳食目当てに殺到するという事態は考えにくい。一人客がメインのため客席もカウンター席と2人掛けの席が大半のレイアウトなので、店の雰囲気も考慮すれば、そうしたグループ客が多数入っていくというのも想定しにくい。また、特に都内の店舗は常にレジ前に長い列ができている店舗も珍しくなく、『これ以上、店内に客が増えようがない状態』なので、以前に増して混雑するということは物理的に起きにくいのではないか。
ネット上の反応をみると『独身の客』対『子連れ客』という対立構図でとらえる見方も少なくないが、当然ながら一人客のなかには子を持つ女性も一定数いるだろうから、偏った印象が勝手に広まってしまったという面もあるだろう」(外食業界関係者)
幼児が口にする離乳食の提供を行うというのは、飲食店にとってハードルが高いことなのか。また、なぜ今回の取り組みは議論を呼んだのか。自身でも飲食店経営を手掛ける飲食プロデューサーで東京未来倶楽部(株)代表の江間正和氏に解説してもらった。
飲食店が離乳食の提供を行うこと自体は、そんなにハードルの高いことではないのですが、今回は「ターゲットのバッティング」が議論を呼んだのだと思います。このターゲットのバッティングは、極端なケースだと「喫煙家vs.非喫煙家」のようなケースで見ることもできます。
スープストックを利用しているお客さんの層は、「落ち着いていて、ひとりでも入りやすい店」として利用している人が多いのに、そこに小さな子どもを連れたファミリーが入り込んでくるわけですから、ターゲットのバッティングは容易に想像でき、既存の利用者を中心に今回のような反発が発生しているのではないでしょうか。飲食店のなかでも、ある程度の高級店では「お子様はご遠慮ください」「中学生以上からご利用可能」「20歳以上から」のような対応のところも多いですが、これもお店のコンセプトを守るためや、利用者のバッティングを防ぐための対策となっています。スープストックトーキョーは高級店ではありませんが、既存客は今の環境を気に入っているから利用していますので、今の環境が壊される恐れがある要因については排除したい、自分の領域を守りたいというのが本音でしょう。それがSNSに表れているのではないでしょうか。「あれもこれも」はなかなか難しかったりもするのです。