一生懸命頑張っているのに、なかなか成約に結びついてくれない。提案資料も完璧だったはずなのに、顧客からの反応はイマイチだった。セールスは過酷な仕事だ。数字で結果を出せないと、周囲の評価は下がり、自信も折れてしまう。
一方で安定して成果を出し続けるトップセールスパーソンがいる。彼らを見るとセールスという仕事を楽しそうに取り組み、課題を解決している。成果を出し続けられる人と、成果が出ずにもがき続けている人。そこにはどんな壁があるのか。「仕事の教科書」とも言えるベストセラー「トップ5%」シリーズ。その最新刊が『AI分析でわかった トップ5%セールスの習慣』(越川慎司著、ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)だ。
今回のテーマはタイトルの通り「セールス」。3年連続で目標を達成して、かつ社内の営業成績がトップ5%に入っている人を「トップ5%セールス」と定義し、2.1万人におよぶセールスの実態調査から、「トップ5%」と残りの「95%」にはどんな差があるのかを分析している。
著者の越川氏によれば、5%セールスは他部門に異動しても、他社へ転職をしても良い成績を出し続けており、再現性の高い行動習慣を持っていると述べる。つまり、セールスに限らず、どのような環境においても活用できるというわけだ。では、5%セールスと残りの95%にはどんなところに違いがあるのだろうか。
既存顧客への提案資料。よかれと思って美しく整形をしたり、顧客から指示をされていないページを忖度して増やしたり、情報を詰め込んだりしてしまってはいないだろうか。相手のためにと自分なりに頑張るわけだが、実はそれは徒労に終わることが多い。越川氏によれば、資料作成の調査から過剰な気遣いによって作成された「忖度ページ」は資料の24%を占め、さらにその「忖度ページ」の約8割は顧客に見られてすらいなかったという。
5%セールスの人たちはそうした無駄をしない。5%セールスのうち、パワーポイントが得意な「パワポ職人」はわずか13%。美しい資料作りと「売る」という行為に、因果関係はないのだ。それよりも、意思決定者がどんな資料を好んでいるかを分析する方が重要だ。
仕事において「成功」は目指すべき目標であり、当然「失敗」はしたくないもの。失敗をするくらいなら、やらないほうがいい。そう考えているのであれば、95%から抜け出すことは難しいだろう。
5%セールスは「失敗・失敗・失敗の先に成功があります」と言う。彼らは失敗を失敗のままにせず、学びを得て次の行動に活かし、最終的に成功を勝ち取っている。つまり、ローリスク・ローリターンで「学び」を積み重ねているのだ。
越川氏は「一つ一つの行動を、成功か失敗かで判断していたら、心が持ちません」と言う。一つ失敗をしてクヨクヨしていると、次への動き出しが遅れてしまうだろう。5%セールスは「行動実験を繰り返しているだけ」と述べる。うまくいかなくても「失敗」ではなく「学び」と捉え、すぐにまた新たな「実験」を重ねていくのだ。
仕事をしていると、どうしても自分が成果を出すことにフォーカスしてしまう。しかし、5%セールスが考えていることはその一段上を行く。彼らは、自分ひとりでなんとかしようとするのではなく、周囲を巻き込み、チームで複雑な課題に取り組む。部門の壁を越える必要があるときには、「協力者の上司へのお礼」「ビジョン・情熱の共有」「共通の敵を見つける」といったアクションを通して協力を取り付けている。社内調整力の高さが際立っているのだ。