「代替卵が世界でも多く売られ始めた理由は、アニマルウェルフェアです。卵用の鶏は酷使され、なんの配慮もないケージに閉じ込められ、自分の体の大きさよりも小さな面積しか与えられないような狭さで飼育されてきました。400~600日間、卵を生んだ後、屠畜されますが、最後には鶏たちは羽が抜け落ち、とさかが真っ白になり、精神的にもダメージを負った状態になります。
効率化と量を追求する工場畜産の最たる畜産物が卵です。鶏をケージに閉じ込めない平飼い、放牧の飼育に切り替える流れも世界中で進んでいますが、同時に卵という動物の苦しみだけでなく環境負荷も高い動物性たんぱく質から脱却し、植物性などで代替していくことがトレンドになりつつあります。
日本人の卵消費量はメキシコに次ぐ世界2位で、一人当たり年間330個も食べています。卵は1日1個食べた時点で、厚生労働層が示すコレステロール摂取目安を超えてしまいます。そして、消費される卵の多くは、栄養として食べる卵ではなく、料理の補助的役割で使っています。くっつけるため、膨らませるため、乳化させるため、見栄えのためなどです。しかし、この役割は卵である必要はありません」(岡田千尋氏)
さらに、アニマルライツセンターによると過密飼育は鳥インフルエンザが蔓延しやくなる。鳥インフルエンザが発生した農場の鶏は全羽殺処分されてしまうため、卵は供給不足になり値段が高騰する結果となる。
「2022年10月末からたった3カ月半で殺処分数が1500万羽に迫る、大殺処分が日本中で行われました。その内、卵用の鶏=採卵鶏は1360万羽と大部分を占め、採卵鶏の10%が処分されました」(アニマルライツセンター)
これまで日本の卵が安かったのは過密飼育による大量生産のお陰だが、より安全に一羽一羽の採卵鶏をアニマルウェルフェアの方針に沿って放牧させて育てれば、バタリーゲージ(過密飼育)卵の値段ほど安くは仕入れられない。しかしそれは「命の値段」なので、値段の高騰は仕方ないことかもしれない。
そこで、代替卵が未来のタンパク質として脚光を浴びているというわけだ。
筆者がエバーエッグで夕飯としてオムライスをつくったところ、レンジでチンするだけなので、卵を割ってかき混ぜる手間がかからない分、調理が楽だった。味は卵とあまり変わらず、食感もとろっとしていて美味しかった。常温で保存できるタイプを購入したが、災害時に停電した際の非常食として活用できるのも魅力的だ。
カロリーが低く、卵より少しあっさりしているため、筆者は深夜にこの原稿を書いている途中で空腹になってしまったが、ダイエットにはピッタリの食品かもしれない。ただし、卵よりタンパク質など栄養価が少ない点や、エバーエッグのコスパを考えると、まださまざまな課題が残されている。
エバーエッグは130グラム398円で販売されているが、バタリーゲージの卵は10個(500グラムほど)250円くらい、アニマルウェルフェアを重視した放牧卵は6個(300グラムほど)400円くらいが平均価額だろう。
今後の課題は、どのように栄養価を高めていくか、そしていかに安く生産できるかだろう。市場が拡大すれば、さらなる研究・開発が進み、価格も下がることが期待される。
(文=深月ユリア/ジャーナリスト)