アセアン地域におけるイオンの成長の一因としても、トップバリュなど自社ブランドの功績は大きいだろう。イオンが進出しているマレーシアやインドネシアなどの消費者にとって、日本企業の製品に対する人気は高まっている。日本企業が販売する食品や化粧品は、厳格な品質管理の下で生産され、安心、安全だという評価は増えている。加えて、イオンはハラル(イスラム教の教義に従った食品)に対応したトップバリュの食品も供給している。それはアセアン地域の需要獲得に大きく寄与していると考えられる。
また、徐々にではあるが、イオンは中国の事業運営体制を見直し始めた。6月24日に同社にとって海外第1号店であるイオンモール北京国際商城は営業を終了する。世界最大の消費市場である中国は、依然としてイオンの成長に重要だ。ただ、ゼロコロナ政策などを背景とする個人消費の停滞や、不動産市況の悪化などを背景に、中国が高い経済成長を維持することは難しくなっている。2023年にインドは中国を追い抜いて世界最大の人口大国に成長するとみられる。一方、日本では、人口の減少などによって個人消費が縮小均衡に向かっている。どうしても国内事業の成長ペースは鈍化気味になるだろう。イオンが成長を目指すために、アセアン、さらにはインドなど、より経済成長の期待の高い市場に進出する重要性は一段と高まっている。
成長加速のために、イオンは国内外の需要によりよく合った自社ブランドの商品開発を強化するだろう。2021年9月1日~2022年11月25日にイオンが実施した「WAON POINT」会員の加工食品購入データの分析結果によると、全体の85%がトップバリュの商品を購入した。購入しなかった15%の消費者のうち5%(非購入者の34%)は後にトップバリュの商品を購入した。分析対象となった2,428万人のうち、90%がトップバリュの商品を選択している。それだけトップバリュのブランドは消費者からより強く支持されている。
新しい自社商品の開発体制を強化することは、成長加速に欠かせない。そのために、家計の事情に精通しているパート従業員などの意見を活かす重要性は高まる。パート従業員の賃上げの背景の一つには、人々の実感をダイレクトに商品開発に反映し、より多くの消費者が欲しい、使いたいと思うPB商品を増やす狙いがあるだろう。加えて、規模の経済効果も追求しなければならない。物流コストなどの削減に向け、イオンが国内の食品、総合スーパー、ドラッグストア・チェーン企業などを買収する展開も考えられる。状況次第では、イオンの買収などがきっかけとなり、国内小売業界の再編機運が高まることも考えられる。
現地の需要に合わせた商品開発体制の強化は、イオンの海外事業の拡大にも欠かせない。たとえば、インドでは外資規制によって、出資の上限や固有のブランド名称の使用などに規制がかけられている。人々の生活習慣も異なる。そのため、2007年にインド企業と合弁で卸売販売事業を開始したウォルマートは予想したとおりにインド事業を成長させることが難しかった。ただ、2018年にウォルマートはインドのネット通販大手フリップカートを買収し、現地のニーズにより適合したビジネスモデルの確立を急いでいる。成長の加速と収益性向上に向けて、イオンはアセアンやインドなどの消費者の要望に真摯に耳を傾け、これまで以上のスピードで現地企業など利害関係者との関係を強化しなければならない。そのために国内外で店舗の運営体制が見直されるなど、かなりダイナミックな構造改革が進む展開も考えられる。
(文=真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授)