コーセー、高収益化でじわり業績回復の理由…男性用化粧品市場を開拓で売上急増

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コーセー「コスメデコルテ」の公式サイトより

 コーセーの高価格帯の化粧品「コスメデコルテ」の販売が好調だ。もとは女性用の化粧品だが、現在では男性の利用も急増している。背景の一つとして、WBCで大活躍した大谷翔平選手を広告モデルに起用したことは大きい。注目はうなぎ上りだ。大谷選手は、ひたむきに、より良い結果を追求してきた。そのイメージがコスメデコルテのブランド・イメージと結合し、コスメデコルテの化粧品を使ってよりよい自己実現を目指そうとする人は急増している。

 ただ、業績の先行き不透明感は高まっている。現在、徐々に持ち直してはいるものの、コーセーの利益率はコロナ禍以前の水準を下回っている。加えて、中国経済の持ち直しペースは緩慢だ。大谷効果によって得られた収益を活用し、コーセーは製造技術を高め、新しい化粧品の需要を創出しなければならない。その一つの取り組みとして、急速に世界経済のなかで重要性高まるインドなどにおいて同社がどのようにマーケティング戦略を実行するかは注目される。

緩やかに回復するコーセーの業績

 現在、コーセーの業績は緩やかに回復している。要因の一つは、高価格帯の化粧品ブランドであるコスメデコルテの販売増加だ。美容意識の高まりに加え、3月、野球のWBCで投打に大活躍した大谷選手を広告モデルに起用したことは大きい。

 コスメデコルテ・ブランドの歴史は古い。1963年、コーセーは仏大手化粧品ブランドのロレアルと技術提携を行った。なお、2001年にロレアルとの合弁は解消されている。1970 年 12 月、コーセーはコスメデコルテのブランドを発表した。コーセーは海外の大手化粧品メーカーから学んだ化粧品の製造技術を内製化した。その上で、世界の人々の美の向上を追求するために、コスメデコルテのブランド競争力の向上に取り組んだといえる。その後、同ブランドの成長はコーセーが新しいブランドを生み出し、その競争力を高めるために大きな役割を果たした。一例に、1985年、「雪肌精」ブランドが発表された。漢方薬のビンをイメージした瑠璃色のパッケージは雪肌精ブランドのシンボルになったといえる。親から子へ、さらには日本から世界へ雪肌精の需要は拡大した。さらに、近年は中国における労働コストの上昇などに対応するために、同社は国内生産も強化した。美の追求だけでなく、安心、安全の面でもコーセーのブランド・イメージは高まったといえる。

 そうした取り組みを背景に、現在、コーセーの業績は緩やかに回復している。2022年12月期(2022年度)の連結売上高は前期比7.5%増の2,891億円、営業利益は同41.1%増の221億円だった。営業利益率は前期の5.8%から7.7%に上昇した。世界的にインフレが進行し、コストプッシュインフレに直面し業績が鈍化した企業は多い。コーセーも原材料費の増加に直面した。しかし、長引く感染により絞られてきた動線(人々の移動)は、日本や米国、欧州で修復された。日本では、百貨店への客足の戻りは急ピッチだ。韓国、米欧諸国などのインバウンド需要も回復した。そうした環境変化が進むなか、欧米市場において、メーキャップブランドであるタルトはより多くの需要を獲得した。加えて、国内ではコスメデコルテへの需要が急増した。

化粧品の常識を覆すマーケティング戦略

 背景の一つとして、コーセーのマーケティング戦略の影響は大きい。従来、化粧品は女性が使うものという見方は多かったはずだ。しかし、よりよい素肌の状態を保ちたい、他者への見た目をよりよくしたいというのは、多くの人に共通する思いだろう。美への潜在的な欲求、憧れという意味での需要を掘り起こすために、コーセーは有名アスリートを広告モデルに起用した。その一人が、フィギュアスケーターの羽生結弦氏だ。羽生氏は「雪肌精」のイメージキャラクターに起用された。それは、凛とした美しさを目指すといったブランドのイメージの醸成、さらには男性からの支持獲得に大きな役割を果たした。