3月22日、神宮第2球場の解体工事が始まった。これにより、明治神宮外苑再開発が本格的にスタートしたことになる。再開発では大量の樹木が伐採されるおそれがあり、周辺住民らは2月、都に再開発の施行認可取り消しを求めて提訴している。
神宮外苑での樹木伐採問題が紛糾するなか、葛西臨海水族園においても1400本もの樹木が伐採されることが明らかになっている。2月10日の都議会環境・建設委員会で、建設局担当者は新水族園の建設エリアにある樹木の本数について「約1400本」と答弁し、「移植を前提に設計を進めている」と説明した。そして、伐採した樹木1400本の後には太陽光パネルが敷き詰められるという。
葛西臨海水族園は上野動物園100周年を記念して都が計画し、世界的建築家・谷口吉生氏の設計建築で1989年に完成した。築30年近くが経過して老朽化が問題になり始めた2017年12月から「葛西臨海水族園のあり方検討会」が都建設局で行われてきた。東京都議会議員の上田令子氏は、この経緯について次のように説明する。
「2018年に突如として解体ありきの計画が進み、私がおかしいぞと気づいたのが2018年から19年にかけて。これに危機感を覚え、議会で質して問題提起したところ、都が行ったパブリックコメント(意見公募)では解体反対が89%を占めた。それに呼応して谷口氏の門下生を中心とした建築家および日本建築学会主催のシンポジウム『葛西臨海水族園の長寿命化を考える』が19年12月に緊急開催された。さらに、ハーバード大やイエール大の教授陣から、小池百合子知事を批判する要望書も届いた。小池知事は英語が堪能なので、何か反論するのかと思ったが、何も言わなかった」
解体反対の声が大きくなり、さすがの東京都も水族園のシンボル、本館のガラスドームを残さざるを得ない状況となった。2021年9月、解体ありきの計画から「既存施設の利活用方針」が示された。
ところが、コロナ禍のどさくさに紛れて計画は進行していた。都は事業計画について、民間業者に施設建設を任せるPFI方式を採用し、22年1月に公募を開始した。8月、INOCHIグループ(NECキャピタルソリューション、鹿島、日テレアックスオン他)が水族館再整備事業を落札したと発表。ただ、予算縮減のためにPFI方式を採用したはずが、なぜか二番手グループより9億円も高い431億円の落札価格だった。
「自然環境を守るために既存施設をどう活用するのか図面を公表するよう本会議質疑で求めても、都は『事業者が実施する設計』と答えるばかりで、詳細はいまだ明らかになっていない。公表されているのは1枚のイラストだけで、北側の樹木はすべてなくなり、子どもたちに人気の淡水生物館が取り壊されることが予想できる」(上田氏)
葛西臨海水族園の建て替えについては、当然のことながら、都議会でも議題として上がってきた。上田都議によれば、これに反対してきたのは、共産党会派と一人会派の上田氏だけだったという。
「9割方の都議は伐採案に賛成している。鹿島のようなゼネコンが入っているので自民党は反対できないのだろう。賛成派の都議たちも地域住民の突き上げを食らうので、選挙前だと、都に対して『慎重にやってよ』くらいのことは言う。パブコメは終わってしまうと誰も関心を持たなくなるので、都にすれば『都民の意見も聞いて専門家にもお墨付きをもらった』というふうに勝手にどんどん進めてしまう。結果的に全然民意を反映しない都議会になってしまっている」(上田氏)