上司という存在は、会社から求められている成果を上げつつ、部下のマネジメントを行い、チームのレベルを底上げしていくことが求められている。
これは言葉で言うほど簡単ではない。特に部下のマネジメントは、まず一人ひとりのことをよく見ていなければいけないし、アドバイスするにしても相談に乗るにしても、適切なタイミングがある。「これをやってほしい」と仕事を渡しても、スムーズにこなしてくれる部下ばかりではないだろう。
となると、部下に任せず「自分がやった方が早い」と思ってしまいがちだが、これでは部下は成長せず、チームのレベルも上がらない。上司の求められている役割は、人材を育成し、チームとして成果を出すこと。そのためには、しっかり部下との関係を構築しなければいけない。
では、部下との関係を築くためにはどうすればいいのか。
『できる上司は会話が9割』(林健太郎著、三笠書房刊)は、「会話」に注目し、部下を育成するにはどんなコミュニケーションを取るべきかが書かれている一冊だ。
昨今の人材育成のトレンドは「ほめて育てる」だ。
しかし、積極的にほめても、部下の反応は鈍く、期待通りの成長を見せてくれないことも多い。ほめているのに、一体なぜなのか。著者は「これは起こるべくして起こっていること」だと述べる。
確かにほめることは、部下のモチベーションを上げるうえで効果的な方法の一つだ。
しかし、無意味にほめ続けては逆効果になることもある。だんだんと「忖度する部下」が生まれ、ほめてもらえる行動だけをとるようになるのだ。
また、ほめられることに慣れてしまい、何をしても心に響かなくなることもある。これではモチベーションアップにはつながらない。使い過ぎると機能しなくなるのだ。
では、効果的なほめ方はあるのか?
それは自分が心から「ほめたい」と思ったときにほめればいい。部下の育成において、「ほめる」よりも大切なことがある。それは「承認」だ。
相手がそこにいること、行動したこと、発言したことなどに対して「気づいているよ」「見ているよ」「受け取っているよ」ということをしっかり相手に言葉で伝える。そうすることで、部下の承認欲求は満たされる。
例えば、部下が財布を変えたとき「いいデザインだね」と伝えるのが「ほめる」ことならば、「財布変えたんだね」と気づいてあるのが「承認」だ。「承認」は「ほめる」よりも、中立的な表現として部下に届くのだ。
著者が考える「承認」の利点は、「ほめる」よりも使いやすい点だ。成果が出ていない部下に対しても、「進んでるね」「その調子だよ」という言葉を通して、そのプロセスを承認してあげられる。
承認の言葉は、部下のモチベーションを高めることに役立つほか、部下に対して建設的なフィードバックをするときに、部下がそれを素直に受け入れる下地作りにつながる。 ほめることが苦手な人でも、「承認」はできるだろう。部下のやっていること、考えていることを認めること、それをまずは実践してみよう。
もう一つ本書から、部下の「やる気スイッチ」の押し方についてご紹介しよう。
部下に同じことを何度も説明しているのに、なかなか覚えてくれないということはないだろうか。
もちろん、「一度で覚えろ」というのは、人間の記憶の限界を無視した話だが、ジムのパーソナルトレーナーのように繰り返し教えていきながら、手間と労力と時間をかけてもなかなか仕事を覚えてくれないというときはどうすればいいのか。
その原因は、部下の仕事に対する「やる気スイッチ」が入っていないことだと著者は指摘する。そして、そのスイッチを入れるのは上司だ。