ただ、そうした変化に各社が自力で対応することは容易ではない。特に、NTTもKDDIも米GAFAMなどとの競争に後れを取った。光通信分野で両社の取り組みが遅れれば、日本のIT後進国ぶりは一段と深刻化し、産業界全体で競争力の向上を目指すことも難しくなるだろう。それは何としても避けなければならない展開だ。
そのために両社は強みを持つ分野により集中するために共同開発を進める。KDDIは、NECや古川電工などと光海底ケーブルシステムの大容量化技術の向上に取り組んできた。NTTも光ケーブル関連の研究開発に取り組んできたが、ケーブルも光電融合デバイスも自社で研究開発体制を強化することは効率的と限らない。目下のところNTTにとって、フォトニクス技術を用いた新しい情報通信技術を確立し、その分野で世界をリードして新しい需要をより効率的に取り込むことの優先順位は高まっているはずだ。光ケーブル関連の技術に強みを持つKDDIと連携し、分業することはNTTのより効率的な経営資源の再配分を支えるだろう。5Gなど既存の分野でNTTとKDDIは競合関係にあるが、新しい需要を世界トップスピードで創出するためには、複数の企業でリスクを負担しあったほうがよい。KDDIにとっても光技術を用いたチップ、通信機器、データセンタ運営などの面でNTTと共同開発を進めたほうが、事業運営のスピードを引き上げ事業環境の変化に対応しやすくなる。
ある意味、NTT経営陣は過去の教訓をもとに、今回の技術変革局面をチャンスに変えようとしているように見える。1999年、NTT(当時はNTTドコモ)は世界ではじめて、フィーチャーホン(ガラケー)でインターネットに接続する技術(iモード)を確立した。しかし、iモードは世界に普及しなかった。要因の一つとして、NTTが内外の企業とよりオープンな姿勢でウィン・ウィンの関係を目指すことは難しかったとみられる。NTTはあくまでも自社の価値観に基づいてiモードの世界展開を目指した。結果的に、アップルのiPhoneのヒットなどによって急速にNTTの競争力は低下し、ドコモが重ねた海外買収も大きな成果を実現することは難しかった。携帯電話事業から撤退する本邦企業も増えた。NTTグループ全体の世界経済のデジタル化への乗り遅れは、多くの負のインパクトを日本経済に与えたといえる。
その教訓に基づき、NTTは国内外企業との連携をさらに強化し、より多くの企業、産業、国にとって安心して利用することのできる光電融合デバイスの実用化を目指すだろう。それを用いた通信インフラの開発などをKDDIが担い、さらにはチップの開発面ではラピダスなどがNTTの開発したデバイスを受託製造するシナリオも考えられる。別の視点から考えれば、競合相手であったKDDIとの関係を強化することによって、NTTは自前主義から脱却し、オープン・イノベーションの実現に取り組み始めている。それは、NTTがIOWNを軸に6Gなど次世代の情報通信技術に関する国際規格を取りまとめるためにも欠かせない。
現在、日本には米中の有力プラットフォーマーに比肩するIT先端企業は見当たらない。それだけにNTTの次世代情報通信技術開発の先行きは楽観できない。ただ、世界のIT先端分野においてメモリ半導体の市況悪化、SNSなどのビジネスモデルの行き詰まりは鮮明だ。厳しい状況ではあるがNTTはKDDIなどとの協業体制をさらに強化しなければならない。そこに国内の半導体関連などより多くの企業が参画すれば、失地回復は可能かもしれない。
(文=真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授)