現在、JFEホールディングスは、製鉄メーカーとして構造改革を一段と加速すべき局面を迎えている。背景にはいくつかの要因がある。まず、短期的に世界の鉄鋼需要が伸び悩む恐れは高い。日本では主力である自動車産業の生産回復ペースが緩慢だ。中長期的に、世界の製鉄業界では脱炭素に対応するための新しい製鉄技術の確立が一段と加速する。脱炭素にどう対応するかはJFEにとって中長期的な国際競争力の維持、向上に決定的なインパクトを与えるだろう。
事業環境の激変が予想されるなか、JFEは事業規模ではなく、高付加価値の鋼材創出能力を高め、成長を実現する方針を示している。選択と集中だ。今後、同社はEV用の鋼板など先端分野の需要獲得を目指し、国内外の製鉄企業などとの提携・連携を強化しなければならない。その一つとして、脱炭素に必要な二酸化炭素の回収や再利用に関する技術開発にどう取り組むかは興味深い。それによって、これまでの製鉄業界のあり方は大きく変化する可能性も高まる。
2000年代に入って以降のJFEは時間の経過とともに、価格競争の激化などの構造変化に直面してきた。それは、株価の推移から確認できる。2007年秋の前と後で株価の動きは大きく異なる。2007年秋まで、JFEの株価は上昇した。背景には、中国をはじめとする新興国の経済成長、ITバブル崩壊後の米国の住宅バブルの発生と膨張、それらに支えられた世界経済全体の緩やかな回復があった。世界経済の成長に伴って、インフラ整備、住宅建設、自動車生産など産業界全体で鉄鋼需要は増えた。
しかし、米国の住宅バブルが崩壊し、さらにはリーマンショックが発生した後、今日に至るまで、JFEの株価は右肩下がりの傾向にある。背景の一つとして、中国鉄鋼メーカーによる急速な生産能力の向上は大きい。共産党政権主導で国有・国営鉄鋼メーカーの事業運営体制は拡大された。リーマンショック後、中国政府は高い経済成長率を維持するためにインフラや不動産などの投資を増やした。その結果、2020年、中国の粗鋼生産能力は10億5300万トンに達した。共産党政権は過剰生産能力の削減を進めているが、2022年の生産量は10億1300万トンだ。2022年、日本の生産能力が8920万トンだった。
中国の過剰生産能力の蓄積、さらにインドなどでの生産量増加などを背景に、価格競争は激化し、鉄鋼市況も不安定化した。それに加えて、新型コロナウイルスの発生、感染の再拡大、ウクライナ紛争などによる供給制約により、事業環境の不安定感は一段と高まった。環境変化に対応するためにJFEは構造改革を強化した。特に、京浜工業地帯のシンボルとまでいわれた高炉の休止は、経営陣の危機感と新しい事業運営体制確立への覚悟をステークホルダーに示した。
現在、中国のゼロコロナ政策終了を背景に、インフラ建設などに必要な鋼材需要が高まるとの思惑から一部の鉄鋼メーカーは増産に動き始めた。国内では、中国需要を念頭に鉄スクラップ価格も持ち直している。ただ、中国の不動産市況は悪化基調を脱したとはいいづらい。世界的に鉄鋼需要は停滞気味に推移しそうだ。
その状況下、JFEはこれまで以上に選択と集中を強化しようとしている。JFEは世界的なカーボン・ニュートラルなどに対応するために先端分野で研究開発費を積み増す。根底にあるのは、高炉から電炉、さらには直接還元法へという製鉄技術の変化だ。その中でも注目が高まるのは、直接還元技術の早期確立だろう。
これまで、日本の鉄鋼メーカーは高炉を建設し、コークスを用いて鉄鉱石を還元することによって、自動車に用いられる鋼板などを生産してきた。しかし、コスト圧縮に加えて脱炭素に対応するためにも、これまでのような高炉運営は難しくなっている。それは世界的な鉄鋼業界の変化といえる。再生可能エネルギー由来の電力を用いて電炉製鉄を行うことは、脱炭素の推進には貢献するだろう。一方、課題もある。電炉を用いた製鉄では、溶鋼時に窒素などの不純物が混入し鋼板のひずみの原因になるとされている。電炉を用いて生産された鋼材の特性にどの程度影響を与えるか、影響がある場合どの程度までを許容範囲にするかなど、解決されるべき課題は多い。