そのためJFEは天然ガスを用いて鉄鉱石を固体のまま還元した後に、電炉で溶解する技術の開発に取り組んでいる。コークスを用いないため、温室効果ガスの排出は抑制される。ただ、ウクライナ紛争などによる資源供給の不安定化、外国為替市場における円安の進行などを背景に、わが国の輸入するエネルギー資源などの価格は上昇している。海外から天然ガスを輸入し、国内で直接還元鉄の生産体制を確立することは容易ではない。
目先、JEFが収益を確保するために、高炉の改修、効率化の向上と、より低コストの電炉製鉄技術の実現を目指すことは急務だ。そのためには、既存分野での事業運営費をさらに圧縮しなければならない。2月6日、同社は2023年3月期の連結純利益予想を下方修正した。それは、需要減少への対応に加え、中国の鉄鋼メーカーなどと競合する分野でのコスト圧縮をさらに強化し先端分野での事業運営体制の強化を急ぐ考えの高まりの表れといえる。
脱炭素に対応した製鉄技術の確立は、これまでの製鉄分野のエコシステム(ビジネスモデル、産業構造、社会との関係など)を大きく変化させるだろう。中長期的に、世界の製鉄業界では、水素を用いた直接還元技術の開発競争も激化するだろう。火力発電のウェイトが大きい日本にとって、水素導入の社会・経済的コストは大きい。それを考慮するとJFEにとって、二酸化炭素の回収・貯留(CCS)、分離・貯留、利用(CCUS)に関する技術を既存の製鉄技術と結合する必要性も増す。高炉から排出される二酸化炭素を回収して貯留する、さらには利用することが可能になれば、JFEの事業運営上の選択肢は増えるだろう。逆に、そうした変革が遅れると、日本で製鉄を行うことは難しくなるかもしれない。
口で言うほど容易なことではないがJFEはこれまで以上に既存事業の効率性を高め、浮き出た資金をより迅速に脱炭素に対応した製鉄技術の確立に再配分しなければならない。ポイントは、直接還元法など新しい製鉄技術を競合他社に先駆けて実用化することだ。直接還元の技術や二酸化炭素の排出を抑えた高炉、電炉の運営体制を強化できれば、JFEのエンジニアリング・ビジネスの収益機会も増えるだろう。
経営陣は新しいエコシステムを描き、その実現に向けた取り組みを強化しなければならない。水素の生産、運搬などのインフラ整備も含めて考えると、前倒しで実用化を目指すために総合商社、エネルギー、プラント建設、素材、機械など異業種の企業とのアライアンス体制の強化は急務といえる。事業環境の不安定感高まりやすい環境ではあるが、JFEはこれまで以上に構造改革を推進し、EV向け鋼板など高付加価値製品の創出力向上を目指すべき局面を迎えている。その上でJFEはEVだけでなく半導体の製造などに必要な新しい鋼材の供給体制を強化し、収益力の向上も急がなければならない。それは同社の持続的な成長のみならず、自動車や精密機械、半導体などわが国製造業が高付加価値商品の創出を目指す大きな刺激にもなるだろう。
(文=真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授)