「例年、たとえば大問2の問題文の内容が大問1と反対になっているというかたちをとるなど、批判的思考力を問うのが慶應大経済学部の問題の特徴でした。今年は大問4が大問3の問題文への論評になっており、長文の日本語部分だけを読解しても問題は解けず、大問3と連携したかたちで設問されており、『照らし合わせ』など情報処理能力や分析力を問うています。早稲田大学の教育学部や理工学部、共通テストでも類似した問題が出ており、こうしたトレンドが背景あるのかもしれません」
入試の英語科目で必然的に帰国子女が有利になってしまうことへの対策ではないかという声について、もりてつ氏はいう。
「従来の大問4の日本語の会話文を英訳する問題は、日本語は比較的平易で、英訳も帰国子女にとっては簡単な一方、英語が苦手な学生にとっては難しいレベルといえました。今回の形式は英語の能力だけでは解けず、日本語文章の読解力に加えて情報処理能力や分析力も必要になるので、その意味では、帰国子女にとっては『難しくなった』といえる側面はあるのかもしれません。ただ、慶應側が帰国子女対策という意図をもって出題形式を変えたのかどうかは、なんともいえません」
慶應大といえば近年、早稲田大とダブル合格した学生が早稲田大に入学する傾向が指摘されている。21年12月16日付「東洋経済オンライン記事」によれば、早慶の同じ系統の学部に合格した予備校大手・東進ハイスクールの入学先としては、調査対象となった9学部のうち、早稲田大の政治経済学部を含めて6つの学部系統で早稲田大を選ぶ学生の比率が高かったという(21年入試分)。また、21年から早稲田大の政経学部が大学入学共通テストの数学受験を必須としたことで、東京大学や京都大学をはじめとする国立大学の受験者が同学部を受験しやすくなり、国立大学を落ちた学生が慶應大の経済学部から早稲田大の政経学部へ「流れてしまう」ことへの対抗策として、国立大志望者が論述問題への対策として力を入れている読解力を試す問題を取り入れたのではないかという声もみられる。
「早稲田大や東大、京大を落ちた人を取り込もうという意識は以前から慶應大にあったでしょうから、今回の出題形式の変更と関係があるとは考えにくい。また、今年に限らず慶應大の英語の問題が東大の問題に似ているとはいえない」(もりてつ氏)
来年以降の受験生にとって気になるのは、今後も慶應大で同様の問題形式が出題されるのかどうかという点だ。
「個人的には、今回のように日本語・英語両方の能力、批判的思考能力を試す問題は続ければよいと思うが、今後も続くかどうかは今年の受験生の出来次第でしょう」(もりてつ氏)
(文=Business Journal編集部、協力=もりてつ/武田塾英語課課長)