ブランディングの方針が明確化されており、そのうえで原価から考慮した適正な値上げを行うというスタンスのようだが、値上げタイミングを鑑みない強気な姿勢をなぜ続けられるのだろう。
「理由のひとつに考えられるのが、19年の値上げ後、ココイチが想定していたほど客足の落ち込みが激しくなかったことがあるかもしれません。これは同社も『2020年2月期決算説明要旨』で同様の趣旨のことを述べています。さらに続く20年2月期には売上が3期連続で過去最高、利益が4期ぶりに過去最高を記録したということもあり、値上げ姿勢でもファンがついてくることを確信したからではないでしょうか。
最大の理由は景気が低迷したことで、消費者のお財布の紐が堅くなったことにあるでしょう。また、その強気な値上げ戦略がネット上で大きく取り上げられたことで、『ココイチはファンの足元を見て何度も値上げをするのか?』といった悪印象が広まってしまったこと、しかも、値上げするたびに繰り返し取り上げられてしまうことも原因でしょうね」(同)
多くの飲食店が値上げをせずに耐えるか、もしくは値上げをするにしても苦渋の決断という雰囲気が漂うなか、堂々と、かつ頻繁に値上げを行ってきたココイチ。その無理をしない姿勢は素直ではあるが、消費者心理という点で見ると、少々配慮が足りなかったのかもしれない。
ココイチに欠けているのは「消費者心理を捉えた工夫」だという。
「消費者が値上げに過敏に反応するようになった今、ココイチのとっている戦略は、値上げを必要以上に印象づけてしまっている気がします。とりわけココイチの現在のメニューブックの考え方・作り方は、『普通に頼んだだけで1000円を超えるカレーばかり』と消費者に思わせてしまうものになってしまっているのです。
というのも、現在のココイチのメニューブックは、同社の魅力でもある豊富なトッピングがすでに組み合わさった状態の商品を主軸に提案する作りだからです。これは膨大な組み合わせに消費者が戸惑わないようにするためのものとしては有効なのですが、パッと見たときに高額商品ばかりが並んでいるように見えてしまうというデメリットがあります。
そうした商品を載せるなということではなく、載せるにしてもベースとなる1000円以下のトッピング付きカレーの値段表記を大きく見せ、その隣に『こんなトッピングもあるよ』と別途トッピングの値段を提案すれば印象も大きく変わっていたでしょう。また、どの商品画像も同じような大きさで載せているのもネック。どれかリーズナブルな商品を1点、2点おすすめとしてピックアップして画像を大きく見せれば、消費者の間で『ココイチ高くなったな』というマイナスの印象も最低限に抑えられたはずだからです」(同)
ココイチのメニューブックには、時代を読む力をもっと込めたほうが良いと笠岡氏は続ける。
「ココイチは、『豊富なトッピングを選ぶ楽しさ』で人気を獲得したチェーンです。ですがお財布の紐が堅くなり、効率性が重視されるようになった今は、『おすすめを手早く注文したい』という需要のほうが多いのではないでしょうか。そうなったときに“おトクな組み合わせ”や“看板商品”を明確にアピールしないココイチの姿勢は、微妙に時流に合っていないように思えますね」(同)
ココイチの堂々と何度も値上げする姿勢は、物価高騰で苦しむ飲食業界の人たちから見れば、勇気のある英断と映るのかもしれない。しかし、今後は時流に即したメニューブックの見せ方など、消費者心理も捉えた工夫をしなければ、離れた客足は戻りづらいのではないだろうか。
(文=A4studio)