ここにきて、世界の自動車産業に変革をもたらしている要素は、一段と増えている。まず、脱炭素への対応を進めるために世界的にEVなど電動車の需要は高まっている。EVの生産方式は、スマホのようなユニット組み立て型に移行する。さらに、ネットワークとの接続や自動運転などの先端技術の搭載も加速している。その分野では自動車メーカーよりもIT先端企業に優位性がある。中国では、共産党政権が景気対策のために新エネルギー車(EV、PHV、FCV)の販売を支援し、需要が急速に増えた。中国では産業補助金政策などを背景にBYDをはじめとする中国EVメーカーの台頭も鮮明だ。1月31日、BYDは日本でEVの「ATTO 3(アットスリー)」を発売した。
そうした環境に対応するために、世界の自動車産業では異業種を巻き込んだ連携や合従連衡が増えている。ディーゼルエンジンの不正問題を起こした独フォルクスワーゲンは、中国の寧徳時代新能源科技(CATL)などから車載用バッテリーの調達し、EV戦略を強化した。また、フォルクスワーゲンは欧州の半導体メーカーであるSTマイクロエレクトロニクスと半導体の開発で連携し、EV生産面では台湾の鴻海精密工業傘下のフォックスコンとの提携を進めようとしている。仏PSAはFCA(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)と経営統合しステランティスを発足させた。日本ではトヨタ自動車とスズキやスバルなどの連携が強化されている。米国ではGMが韓国企業やホンダと連携して車載用バッテリーの生産やEVプラットフォームの開発に取り組んでいる。
その状況下、日産はEVの走行や安全、さらには自動運転の分野で製造技術を磨いてきた。今のところ、CASEなどに関する先端技術の開発、実用化に関して、日産は相対的な強みを発揮していると考えられる。ただ、取り組みのスピードが低下すると、あっという間に競合他社に追い抜かれるだろう。その意味で先行きは楽観できない。それほど世界の自動車産業界の変化は加速している。実力下回るルノーにとって、そうした日産の先端技術の重要性はこれまで以上に高まる。日産からルノーに対する不満がさらに高まれることは避けなければならない。
ルノーは、対等な関係を求める日産の要求を受け入れざるを得なくなったと考えられる。日産リバイバル・プランの開始から24年ほどが経過したが、ようやく日産は本来の強みである新しい自動車の創出技術に磨きをかけ、世界市場でより積極的にチャレンジする体制を手にいれつつあるといっても過言ではない。
日産に必要な発想は、これまで以上のスピード感と規模感をもってEVなどの開発を強化し、グローバルな需要をダイナミックに取り込む体制を整備することだ。米テスラは世界最大の新車販売市場である中国と第2位の米国でのシェア拡大を目指して、両市場での事業運営体制を急速に強化している。欧州でもテスラは再生可能エネルギーの利用を促進することによって生産体制やEVの充電ステーション整備などを加速させるだろう。そうした先端企業の取組に対応するために、日産は国内外のバッテリーメーカーやIT先端企業などとの提携を強化しなければならない。
それに加えて、日産が磨いてきたエンジンの製造技術の重要性も高まるだろう。特に、インフラの整備が途上段階にある新興国などでは依然としてエンジン車の需要は高まる。ハイブリッド車の利用も含め、より汎用性の高いエンジンの製造の効率性を高めることができれば、日産の収益機会は増えるだろう。このように考えると、長い時間とコストはかかったものの、ようやく日産は自力で、エンジン車と電動車の全方位体制で、グローバルに成長戦略を実行する環境を手に入れつつある。ルノーはこれまで以上に日産の技術を必要とするだろう。対等な資本関係を最大限に活用して、日産が世界市場での成長をどう実現するかが注目される。
(文=真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授)